スターバックス日本売却は「絶好調ゆえの売り時」
2026年6月、米国スターバックスが日本事業を最大5,000億円規模で売却検討しているという一報が流れた。
しかし、スターバックスの日本法人は「不振」ではなく「絶好調」だ。5年連続の増収増益で、推定売上は2021年の2,000億円級から2025年には3,500億円級へ拡大。1店舗あたりの営業利益も他国を大きく上回る。約2,100店の大半を直営している、同社最大級の海外市場である。
「稼ぎ頭をなぜ売るのか」と思うかもしれないが、その見方は順序が逆だ。人気があり高収益な資産だからこそ、高値で売れる(今が売り時)。
米国本社から見れば、連結売上の74%は北米が占め、日本の寄与は筆者推計で5%前後。成長「率」は高くとも成長「額」のパイは小さい市場に、いま4,000〜5,000億円という最高値の値札が付いている。
保持し続けるより、さらに伸びる部門へ資本を投じる――その判断は撤退ではない。店舗運営を手放し、ブランド料の徴収に徹するという事業モデルのギアチェンジである。そして、その背後では「サードプレイスの終焉」という地殻変動が進んでいる。
日本事業の現金化は2度目、同様の資本戦略を既に中国で実行済み
日本ではあまり知られていないが、スターバックスの日本事業は「日米2往復の売買」で価値を高めてきた。1995年に日本企業のサザビーリーグとの合弁で立ち上げ、2001年に東証上場(1回目の売り)。2014年にはTOBで総額約995億円を投じて買い戻し、非公開化した。そして今回が2回目の売りである。約995億円で仕入れた器を12年で倍の店舗網に育て、4,000億〜5,000億円の値札を付けた。企業価値を3〜5倍に高めた、最高水準での現金化だ。
今回の売却の設計図は、既に中国で先行していた。2026年3月末、中国リテール事業の60%を現地ファンド「Boyu Capital(博裕資本)」へ約4,650億円(31億ドル)で売却し、直営7,991店を一斉にライセンス店へ転換。手元には40%の持分とライセンサーの立場だけを残した。背景には、中国発の「Luckin Coffee」(後述)や「Cotti Coffee」が1杯9.9元(約1.4ドル)での低価格競争を仕掛けてきたことで客単価が大きく下落し、1店舗あたりの売上が米国の4分の1まで縮んだ現実がある。表題の「サードプレイスの終焉」の起点は、ここにある。
