「サードプレイスの終焉」の正体
Luckinのような「くつろぎを売らない店」が成立するのは、スターバックスが発明した価値そのものが揺らいでいるからだ。スターバックスが1990年代に発明した商品は、コーヒーそのものではなく「家でも職場でもない第3の場所」だった。1杯500円の対価は豆代よりも、椅子や空調、Wi-Fi、滞在時間を提供する空間にあった。皮肉にも、その価値を崩したのはスターバックス自身である。米国では取引の3割前後がモバイルオーダー経由となり、都心の店舗は「紙カップを受け取りに来た客がスマホを手にする、落ち着かないピックアップ待合室」へ姿を変えた。
オフィス自席でも新幹線内でも公園のベンチでも、「ポケットに高速回線、耳にノイズキャンセリング、指先にモバイルオーダー」があれば、出来立ての一杯を受け取り、好きな場所へ移動できる。それは第3の場所ではなく「第4のプレイス」=自分で選ぶ自分の場所だ。コーヒーは場所に紐づく商品から、人に付いてくる商品へシフトしている。
「誰でも何時間でも座れる無料の場所」は終焉(縮小)に向かい、くつろぎは対価を払う顧客に限定するサービスへ変わりつつある。上級版の体験型旗艦「STARBUCKS RESERVE Roastery」でさえ、第1号のシアトル店は「財務的成果への道筋が見えない」として2025年9月に恒久閉鎖された。東京・中目黒店は今も整理券が出る人気だが、米中で進む変化を踏まえれば、日本は「例外」ではなく「すぐにやってくる時差」と捉えたほうがいい。
日本の同業態・コメダと猿田彦――「和のもてなし」は誰が場所代を払うのか
一方で日本の同業態はどうか。コメダ珈琲店は「次の成長を占う『和』のもてなし」として好調が報じられる。フルサービス型喫茶で国内最大手のコメダは、2026年2月期に売上収益572億円、2期連続最高益、店舗数1,150店。経営理念どおり「くつろぐ、いちばんいいところ」が伸びている。
収支を見ればさらに景色は変わる。店舗網のほとんどはフランチャイズで、本体の収益源は加盟店への食材供給とロイヤルティだ。家賃・人件費・席の維持費という「場所のリスク」を負うのはFCオーナーであり、コメダ本体ではない。まさに魅力を提供する側のアセットライト(資産軽量化)戦略である。つまりコメダは、スターバックスが中国と日本で進めようとしている「場所のリスクを他人に持たせ、自社はブランドと徴収機能に徹する」モデルを、創業以来実践してきた企業だ。「和のもてなし」という評価の裏側には、巧みなリスク分散の設計がある。
もっとも、コメダの次の一手も国内の椅子ではない。シンガポールの飲食企業POON(カヤトーストとタイ料理を30店展開)を買収・連結子会社化し、海外を膨らませている。ただしB/Sを切り離すスターバックスとは対照的に、海外売上約58.5億円のうち84%を直営店が占め、店舗資産を保有したまま展開する。この海外事業セグメント単体は、筆者試算で1~2億円の営業赤字となる我慢どころだ。
これは海外展開の定石でもある。初期は直営で市場を学び、勝ち筋が見えてからFC化してアセットライト(徴収機能)へ転換する二段ロケット――コメダ珈琲店の次の転換をキテカン(起点観測)しておきたい。
もう一つが猿田彦珈琲(東京・恵比寿本店)だ。「たった一杯で、幸せになるコーヒー屋」を掲げ、コンビニコーヒーの監修や豆の卸売という「店舗の外の飴玉」を持つ。海外では2018年に自己流で台湾へ進出し、2019年に三菱商事から5億円の出資を得たが、台湾店は2022年までに全て畳んだ。
おもてなしは国内で自己流を続ける限り自由度が高い。だが多店舗・多国籍へ広げた瞬間、課題は「気持ち」から「事業設計」へ移る。資本を得ても潮流は読み違える。コメダの現地企業「箱買い」も猿田彦の撤退も、「外洋へ出るなら波に乗るのか、岩場で足場を固めるのか」という経営判断の差だといえよう。
