自社の床1坪か、顧客のスマホ1タップか
「Luckinのように店舗面積を削ってオンラインへ寄せればいい」という単純な話ではない。店舗で飲食を提供する事業には、次元の違う3つの道がある。
第1は、場所そのものを商品として磨き続ける道。コメダや猿田彦の国内店、焙煎マスターの個人店、行列のできるラーメン屋、江戸前寿司のカウンターがそれだ。第4プレイスの利便性を上回る価値を「ここの椅子」に持たせる王道である。
第2は、人気店を多店舗展開する道。店舗が増えた瞬間、人気は利益に直結しなくなり、「場所のリスク」を直営で負うかFCに渡すかが成否を分ける。その出口に、スターバックスの「ブランドと徴収機能への集中」が生まれた。
第3は、受け渡し拠点(結節点)に徹する道。LuckinやCottiは都市部の動線に最小限の床とアプリを重ね、くつろぎ客と受け取り客が混在する「自家中毒」を設計段階から排除している。
どの道でも共通するのは、「店舗はくつろぐ場所だ」という無意識の前提を一度白紙に戻すことだ。自社の床1坪ごとに、どんな価値を生むのか、何の結節点として対価を生むのかを問い直す。「自社はスターバックスほどの規模ではない」と読み流すなら、この章の値打ちは半減する。効く気づきは4,000億円の売却劇そのものではなく、Luckinの市場への入り方と、スターバックスの資本政策の転換、そして業態の大改革にある。
アプリ利用は静かに広がり、決済は一瞬、コーヒーは美味しく、デザートは目新しい。そして店舗はシレッと増減する。ニューヨークのZ世代の日常にすでに定着したこの変化は、対岸の火事ではなく時差でやってくる。
自社の床1坪と、顧客のスマホの1タップ、どちらが強い接点か。銀行の支店でも、アパレルの路面店でも、駅前の書店でも、自社オフィスの会議室でも、椅子の価値を「測られる側」から「測る側」へ回るための思考へのヒントだ。
