購買プロセスを分断する「無人区間」
BtoB領域の購買プロセスは、マーケターが広告やウェビナーを通して自社のWebサイトへの流入を増やし、それらの訪問者に営業が接触してヒアリングと提案を進め、成約に至るというのが一般的だ。言い換えれば、マーケターは訪問者をWebサイトに流入させるまでをミッションとし、営業は訪問者の問い合わせを待っているケースが多い。こうした背景を踏まえ、澤野氏は、現在の購買プロセスには「無人区間」が発生していると指摘した。
「無人区間」とは、訪問者がWebサイトに到達した瞬間から商談に至るまでの間を指す。Webサイト上のサービス理解や事例探索、社内説明のための材料集め、そして営業と話す価値があるかどうかの判断までを訪問者自身で進めており、その検討状況を前に進めるよう支援する役割が存在しないのだ。
企業視点では「必要な情報はすべてサイトに載せているから問題ない」という認識かもしれない。しかし、訪問者からすれば「巨大な資料棚の前に一人で立たされているような状態」だと澤野氏。これにより、多くのBtoB企業のWebサイトは、サービス理解を深めて営業と話す覚悟ができた訪問者だけが次のフェーズに進むことができる「関所」と化しているという。
訪問客の取りこぼしを生む「3つの空白」
この無人区間で起きている問題を、澤野氏は3つに整理した。
1つ目は、「声かけの空白」だ。料金ページや複数の導入事例を確認し、明らかに何かを探している訪問者がいても、サイト側からは何もアクションがない。訪問者の関心が高まっている瞬間を捉えて、適切な声をかける役割がいないのだ。
2つ目は「提案の空白」。価格を気にしている人には費用対効果や料金を、導入できるか不安な人には導入フローを提案すべきだが、多くのWebサイトは、訪問者全員に同じページと動線しか提示しない。必要な相手に必要なタイミングで提案ができない。
3つ目の「継続の空白」は、具体的には「興味はあるが、今すぐ商談には進まない層」へのアプローチを指す。来期に検討したい、まだ社内合意を形成できていない、情報収集中である──こうした訪問者には、関心に合う情報を届けながら、検討状況が進むまで会話を継続する必要がある。
これらの3つの空白を埋める解決策として、澤野氏が提示したのが「AI SDR(AI Sales Development Representative)」だ。
自社サイトの「商談化の余地」を60秒で診断
月間サイト訪問数・問い合わせCV率・商談化率の3項目を入力するだけで、Webサイトで取りこぼしているリードと商談化の余地を60秒で試算できます。無料・登録不要で、自社サイトの可能性を確認してみませんか?詳細ページよりご確認ください。
訪問者が求める「次の一歩」を提示。AI SDRの活用事例
AI SDRは、従来は人間が行っていた初期接触やヒアリング、追客をAIが自律的に行うシステムだ。訪問者の質問に受け身で答えるチャットボットと異なり、Webサイトの閲覧状況などを踏まえ、訪問者が必要とする情報を能動的に提案することができる。
澤野氏は、訪問者の検討状況に応じた具体的な活用例を紹介した。
サイト訪問から19分後、納得感とともに商談へ
ある平日の22時4分。製造業の情報システム部長が広告経由で導入事例ページを訪れた。同じ業界の事例を2つ読み、続いて料金ページへ移動。この行動から、AI SDRは「同じ製造業で従業員規模が近い事例をご案内できます。費用対効果と導入期間、どちらを先に確認されたいですか」と、具体的な選択肢を提示した。
さらに訪問者の答えに応じて、導入ステップとセキュリティ資料を提示。会話を重ねるうちに、導入希望時期は3ヵ月以内、社内では比較検討が始まっていることが分かった。
そこで、「ここからは状況を伺った方が早そうです。今週ですと木曜14時か金曜10時に担当者が空いています」と提案し、Webサイト訪問から19分後の22時23分に商談が確定した。
翌朝、営業担当には訪問者の氏名とメールアドレスだけではなく、AI SDRが整理した検討の履歴がすべて共有される。「情報共有に加え、訪問者が知りたいことを1つずつ解消し、本人の納得のうえで商談に進めることこそが、AI SDRの価値です」と澤野氏は強調した。
検討度が低い層を逃さず育成する継続的アプローチ
次に紹介するのが、訪問者の大半を占める「すぐ商談には進まない」ケースだ。
「業務効率化」と調べた担当者が、サービスページを訪問した。チャットの会話から、サービスに興味はあるものの予算化は来期であり、現在は情報収集中だと判明。AI SDRは、すぐに商談を促すのは逆効果だと判断し、社内共有に使える導入チェックリストや類似課題の事例を提示した。訪問者はメールアドレスを登録して資料を受け取っている。
その後も関心に沿った事例や費用対効果の資料を届け、メール閲覧や再訪などの行動シグナルが重なったタイミングで「社内検討は進みましたか。必要であれば比較の観点を30分で整理できます」と会話を再開。商談につながったという。
「重要なのは、検討開始から対話を途切れさせなかったこと。まだ検討段階にない訪問者を無理やり商談につなげようとするのではなく、訪問者が求める『次の一歩』を自然な流れで提案し続けることで興味関心を育て、適切なタイミングで商談に進めるのがAI SDRの特徴です」(澤野氏)
「一貫した顧客体験」を構築する3つの視点
単にAI SDRをWebサイトに設置するだけでは、成果は出ない。最も重要なのは、訪問者の検討状況に応じた「次の一歩」を設計することだと澤野氏。この設計は次の3つの要素で考えるという。
1つ目は「今どこにいるか」。どの広告や検索ワードから訪問したのか。どのページを閲覧しているのか。初回訪問なのか、再訪なのか。2つ目は「何を求めているか」。課題を理解したいのか。他社と比較したいのか。価格を知りたいのか。そして3つ目は「どこまで進めるべきか」。その場で回答するべきか、資料を勧めるべきか。メールで関心を高めるべきときもあれば、営業との商談を提案すべき場合もある。
「どの疑問を解消して、どのコンテンツで理解を深めて、どのタイミングで次のフェーズに進めるか。この一貫した顧客体験をマーケターと営業が共同で設計して初めて、AI SDRはその価値を発揮するのです」(澤野氏)

この設計により「3つの空白」を埋めた成功事例として、澤野氏は、DynaMeetが提供するAI SDRプラットフォーム「Meeton ai」の導入事例を紹介した。
商談化率60%超。成果を最大化するKPIの再設計
AI SDRの導入効果は、前述の「3つの空白」をどう埋めるかによって左右される。澤野氏は、導入企業における3つの実証データを提示した。
まず、リード獲得数が従来のチャットボットと比べて20倍になった企業の事例だ。この事例は、広告費の増加などによって訪問者の数を増やしたのではない。訪問者が閲覧しているページや行動の文脈に応じて「同じ業界の事例をご案内できます」「料金の考え方を確認されますか」などと声をかけ、「声かけの空白」を埋めたことで、訪問者数はそのまま、商談につながる割合を増やした。
また、別の企業の事例では、営業が「有効」と判定したリード数(SQL)が2倍になった。「Meeton ai」を用いて訪問者に最適な資料や情報を提案し、「提案の空白」を埋めて検討状況を一歩前へ進めた状態で営業へつなげたのだ。
3つ目が、商談化率が60%を超えた企業の事例だ。全員を今すぐ商談へ押し込むのではなく、次の一歩を案内し続けることで、サイト訪問者が商談まで進む割合が高まった。「これが、『継続の空白』を埋めた結果です」と語る。
「こうした成果を生み出すために不可欠なのが、KPIの再設計です。従来のリード数やCPAに加えて、『Webサイト訪問から商談に至るまでの進行状況』を表す数字が鍵となります」(澤野氏)
具体的には、サイト訪問者のうち何人がAIと対話したか(対話率)。そのうち何人が資料を読み、連絡先を入力して商談へ進んだか(コンテンツ閲覧・SQL転換率)。導入タイミングではなかった人のうち、メールフォローによって何人が商談につながったか(再訪・商談化率)──。AI SDRにより、これまでは見えてこなかった「無人区間」の行動プロセスを数値化し、改善することが可能になる。この数値を日々追うことで、マーケティングと営業共通の最終指標である「有効商談数」や「パイプライン金額」の向上が実現できるのだ。
Webサイトは「商談を創る接客チャネル」へ
AI SDRを導入すると、マーケターは「訪問者の検討を前に進める」ことに集中できるようになる。ページごとのニーズを定義し、次に過去のコンテンツ、たとえば事例や比較表、動画などを営業資産に育てる。さらには訪問者へ届ける順番を設計するなど、「何人集めたかではなく、来てくれた人をどれだけ次の段階へ進められたかへと、役割が広がっていくのです」と澤野氏は語る。
一方の営業に求められるのは、業種や規模、課題などを含めた「良い商談の言語化」だ。商談には、AIが集めた文脈を活かすことが求められるだろう。「AI SDRは営業を不要にするものではありません。まだ商談の準備ができていない訪問者を無理に追い続ける時間を減らし、今本当に提案すべき相手との対話に集中できるようにするのです」という。

澤野氏はAI SDRがもたらす未来を語り、講演を締めくくった。
「AI SDRを活用することで、Webサイトは訪問者任せの受け身のチャネルから、能動的に商談を作り出す接客チャネルへと進化します。その効果は、単にリードを増やすだけではありません。マーケティングと営業をシームレスに接続し、訪問者からリード、リードから有効リード、有効リードから商談という3段階全てを、一貫した顧客体験として改善することができるのです」(澤野氏)

