広告会社の役割は「抽象化」だった
リクルートの「強さ」をあらためて論じることは、多くの読者にとっては少々食傷気味かもしれません。それは、第三者が分析したり、多くのOB/OGが語ったりする中で、十二分に知られていますから。
ところが「広告会社として」リクルートを見ていくと、また異なった側面がみえてくるものです。その視点でリクルートの強みを一言で言うならば、「とにかく具体的に考えてカタチにする」ということに尽きるでしょう。
「それはビジネスにおいては当たり前かもしれない」と思われるかもしれません。しかし、日本の広告ビジネスは、少々特異な機能を持つことで、そのポジションを築きました。そのカギは「まず徹底的に抽象化する」という思考形態にあったのです。
例をあげて考えましょう。携帯電話の新機種の広告を制作するためのオリエンテーションがあったとします。そこでは、製品の機能や価格などさまざまな情報がある。それを持ち帰ってから、広告代理店のスタッフがまずすることは、何でしょう?
それは「この製品って“つまり何なんだ?”」ということを考えることです。いろいろな機能があるけれども、それはどう意味を持つのか?「生活が潤う」「仲間とつながれる」「持っているだけ優越感がある」と言った抽象化をおこなうのです。このプロセスが、いわゆる「コンセプト構築」と言われるものですね。
広告会社は、得意先が提供する製品やサービスをいったん抽象化する、という役割を担ってました。そして、そこから具体的なキャンペーンを考えるのです。
それに比べると、リクルートはこの抽象化プロセスに時間をかけるよりも、「どうやって企業と消費者をつなぐか」という具体的な発想に注力してきたといえるでしょう。