駅や車両を「立体」と考えると、広告の可能性は広がる
ポスターやステッカー、つり革や中吊りなど、アナログな広告でも斬新なアイディアが目立つ。
「とくにつり革は、いろいろな展開がありますね。商品パッケージそのものでつり革をデコレーションしたり、タッチすると情報が取れる仕組みにしたり。お客様の安全な輸送が最優先ですから、いろいろ制限はあるのですが、そのなかで最大限おもしろいことができればと。新しいことはやはり、アイキャッチになりますから」(小菅氏)

駅構内のイベントスペースもメディアの1つで、イベント開催も活発だ。
「最近のトピックスでは、新宿駅のイベントスペースで1週間、実際に食べられる『ヤキソBar U.F.O.』を開催しました。駅も車両も立体と考えると、クリエイティブは広がりますよね。駅構内は道路と同じ制約を受けるなど、調整が必要なことも多いのですが、技術的にできないことはないと考えています」(小針氏)

写真提供:東京メトロアドエージェンシー

デジタル化で交通広告が変わること、変わらないこと
こうした新しい試みに積極的なのも、交通広告にもデジタル化の波が押し寄せているから。
「以前は、交通広告は流したら終わりだったんですが、ネット広告がそうであるように、数字での成果が求められています。各社独自の指標は持っているのですが、お客様の目からみるとわかりにくいところも多い。共通の指標を持とうと、鉄道各社で集まって話し合いを持っている最中です」(小菅氏)
「『地上は景色が見えるけど、地下は見えない。広告を見るしかない』というのを売り文句にしていたのですが、今は携帯電話を見ている人が多いですからね。生活者の行動傾向が大きく変わってきています」(小針氏)

それでも日々631万人が利用し、通勤・通学ならば月曜日~金曜日と反復して乗車するインフラであることは、ほかのメディアにはない強みだ。
「これから、デジタル化がますます進んでいくと思います。全車両にデジタルサイネージが搭載されるようになれば、また新しい展開が見えてくるでしょう」(小菅氏)
「デジタルサイネージはエコだし、流してしまえば人の手がかからないという利点がある。けれど、中吊りやつり革など、伝統的な交通広告にもそれぞれ良さがあります。デジタル化は避けられませんが、すべてがデジタルになるということもないでしょう」(小針氏)
最新技術を取り入れながら、伝統的な手法も残す交通広告の可能性は広がるばかり。今後の展開に、ますます目が離せなくなりそうだ。