分析の考え方
最後に分析についてです。分析の基本的な考え方、3つの視点、関連があることと因果の違い、そして分析で終わることなく綜合<シンセシス>することで新たな知見を導くことの重要性などについて、理解しておくことが大切です。
分析の基本は視点、仮説
さて、分析する際に欠かせないものは何か。それは視点や仮説だと思います。私たちは、見たいと思うもの、意識にあるものしか目に入らないと言われています。つまり、視点や仮説を持ち、意識をしてデータと向き合わないと、何も見えてこないということです。単に数字が羅列され、その高い低いだけが記述された報告書からは何も得るものがないのは、書いている人に視点も仮説も意識もないからでしょう。視点や仮説を持ってデータと会話し、試行錯誤しながら、ある知見にたどり着く。これこそが分析の基本です。
そしてこの態度は、ビッグデータにこそ求められます。大量で、刻々と生成される、そして脈絡のないデータと対峙していると、何も意識しなければ、あっという間にデータの渦に呑み込まれます。分析の目的は何なのか、どのような視点で分析するのか、仮説は何か、これらのことを意識することが、とても重要になってきます。
変化を見る、比べる、分ける
そして分析には、「変化を見る、比べる、分ける」という3つの視点があります。集計から得られたデータは、そのままでは単なるデータに過ぎません。データは、他と比べることで初めて意味を持ちます。その時に軸となるのが、過去と比べてどうなのか、他と比べてどうなのか、いくつかのグループに分けてみるとどうなのか、という視点です。これらの視点によって、注目すべき項目は何か、差の大きさはどのくらいなのかを検討していくことが、分析の第一歩になります。

関連と因果
データを見ていくと、いくつかのデータに関連性があることがわかってくるでしょう。ある項目が増えると他のある項目が増える、ある属性でデータを比べると明らかな差が見られる、もっと直接的に相関係数による理解でもいいかもしれません。しかし、「関連があること」と、「原因と結果=因果関係がわかる」ことは、まったく別のことです。因果関係が明らかになることは、今後の施策を考える上で重要なことです。しかし安直に因果関係をわかった気になることは、危険なことでもあります。
分析と綜合<シンセシス>
そして、最後に綜合<シンセシス>、前回も使った言葉です。得てして、分析は物事を分解して要素にわけることで理解しようとする傾向があると言えます。しかし、要素を理解できたとしても、決して全体の理解に結びつくわけではありません。分析によって明らかになった要素を綜合することで、つぎに繋がる知見を生み出すことにこそ、より大きな価値があると言えます。そして分析は、合理的に、誰が行っても同じ結果がアウトプットされることが求められますが、綜合は分析者の創造性を要求するとも言えます。これまでにない、誰も気が付いていない価値を生み出すには、やはり分析に留まるのではなく、綜合する姿勢も大切なのではないでしょうか。
終わりに
最終回の今回は、「変わることのない、基本として理解しておきたマーケティングリサーチの3つの考え方」について考えてみました。いろいろな領域で変化が求められる昨今ですが、実は本質を理解することが大切で、本質の理解こそが変化の時代における応用を可能にし、変化に対応することができるようになるのだと思います。今回の連載が、みなさんのマーケティングリサーチの本質理解の一助になれば幸いです。
とはいえ、「全体的視野を失い、枝葉末節にこだわる方法論亡者」(『創造の方法学』*)になることがないよう、ドグマ主義に陥らないような心構えも忘れないようにしたいものです。
*高根正昭(1979)『創造の方法学』講談社現代新書
本書は科学的方法論の本質について書かれている名著です。まだ読んだことがない方は、一読をお勧めします。