デジタル領域とマス領域、それぞれの効果測定の違い
ジョン・ワナメーカーの有名なセリフである「広告費の半分が金の無駄使いに終わっていることはわかっている。わからないのはどっちの半分が無駄なのかだ」と、「デジタルの広告はマスと違って効果を測定できる」という決めセリフと共に、デジタル領域の効果測定は歩んできたと言ってもいいでしょう。
WEBやアプリなどデジタルを対象とした効果測定は、主に、ブラウザにCookie等の識別子を付与し、コンバージョンした際にそのCookieを読み込むことで、コンバージョンしたかを判断します。言うならば「準個人(特定の個人を識別できないが、どこかの誰かとして紐付けられる情報)データ」を軸にした効果測定と言えます。
一方で、こうした手法が、テレビCMなどのマス領域で実施できるかと言えば、多くの資金と時間と労力を要するため、多くの広告主にとっては頻繁に行われていないと思います。
もっとも、マス領域の効果測定が未踏の地かと言えばまったくそんなことはなく、5~60年前からさまざまな分析手法が考案されています。ロックオン内にあるマーケティングメトリックス研究所のサイトで「50年前の広告効果測定」というという記事で仔細を明らかにしておりますが、かつては、主に広告量や広告費、販売数量をベースにした「集計データ」を対象にした効果測定が行われていました(その他、サーベイ論文としては、Leeflang et al. 2009 を参照してください)。
例えば、1968年にK. パルダによって発表された、広告の購買効果を測定する累積効果方程式(通称:パルダ・モデル。今期の広告効果が、前期の売上高と今期の広告費の影響を受けることを表す数学モデル)は、次のような式で表現されます。
マスとデジタル、それぞれ効果測定の定義はまったく異なることがおわかりいただけたかと思います。それぞれの効果測定の概念も、対象とするデータも違うため、数字だけで紐付けようとしても、何の意味もなさないのです。
例えば、阪神と巨人が戦って、阪神が鳥谷のホームランで3‐0で勝利、一方、サッカー日本代表がコロンビア代表と戦って、大久保・本田のゴールで日本が2−1で勝利したとします。このとき、強い順番に並べるとして、
阪神>サッカー日本代表>コロンビア代表>巨人
にはなりません。得点別に並べるとしても
鳥谷>大久保=本田
にはなりません。それと同じことなのです。
マスとデジタル領域を一気通貫に分析する手法
では、どのようにしてマス領域とデジタル領域を統合した効果の分析を行えばいいでしょうか。
ここで、「市場構造の変化を考慮したブランド選択モデルによる購買履歴データの解析」(本橋、樋口、2013)という論文を参照します。
「集計データを用いたプロモーション効果の研究の多くは(中略)、 VARモデル(Vector Auto Regressive Model, 多変量自己回帰モデル)を適用し、 マーケティング変数が売り上げに与える影響を動的に捉えるというアプローチである」
少し補足していきます。
VARモデルとは、計量経済学における時系列分析の手法としてメジャーな統計的分析手法の1つです。例えば、日本の株式市場の予測を立てるのに、アメリカやイギリスを含めたほうが予測精度は向上するかを見るのにVARモデルは使われます。もし予測精度が向上するなら、アメリカやイギリスは日本の株式市場に何かしら影響を与えていると言えます。他にも、他国の株式市場が日本の株式市場に、どのような影響をどれくらい与えているか定量的な表現を得るためにVARモデルは使われます。
同じように、マーケティングの集計データをVARモデルに適用することで、マス/デジタル領域にまたがって行われているマーケティング施策が、WEB上のコンバージョンやPOSデータなどから得られる売上高や販売数量に与えている影響の有無や、その影響を定量化することができるのです。
以下は、その集計データの例です。多くのマーケッターの手元にあると思われますが、そこから分析は行えるのです。
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