オンライン動画広告がブレイクする環境は整った
もともとアドテクノロジー分野において事業を展開してきたオムニバスだが、近年オンライン動画を用いる広告領域においても事業を展開している。その背景には、同社が創業した2008年から現在にかけて、オンライン動画を取り巻く環境が大きく変わってきたことが理由としてあげられる。
広告インフラの整備が整い、様々なメディアの広告枠をまとめて購入することができるようになったこと。そして、フィルタリングやレコメンドなどの技術の進化により、設定したターゲットに届けることができるようになってきたこと。そして、アドテクノロジーの進化によりインターネット広告を取り巻く環境が大きく変わってきた。この3つの環境が整うに伴い、同社はオンライン動画広告領域の事業に力を入れてきたという。
同社 代表取締役 CEOの山本章悟氏は「液体のように柔軟に姿を変える」とオンライン動画の価値を語る。すなわち、広告として大量のリーチを狙うこともできるし、魅力あるコンテンツとしてマーケティングに活用できる。また、オンライン上であることからターゲッティングも容易であり、スマートフォンなどマルチデバイスに配信できる。近年はコンテンツとしてのクオリティも向上しており、シェアできるソーシャルメディアの普及も追い風となって「広がり」を生む力も高まってきている。
一方で、流通情報量は急増しており、一人ひとりが消費できる情報量との間に大きなギャップが生まれてきているのも事実だ。テレビCMをはじめ、従来のマス広告ではリーチできなくなった層への新たなアプローチ手段の一つとして、オンライン動画へ寄せられる期待が高まっている。
インフラの方も成熟しつつあり、Akamai Technologiesの発表によると平均接続速度ランキングにおいて日本は世界第2位を誇る。さらに2014年1月には動画閲覧においてスマートフォンがPCを抜くなど、いつでもどこでも動画を閲覧できるような環境が整ってきたことも明らかになっている。また、媒体側としても、動画関連のアドテクノロジーが進化し、提供する企業が増えてきたことで、動画広告導入のためのハードルとコストが下がったことも大きい。こうした事象を受けて、山本氏は「こうした様々なことがそれぞれバラバラに進化してきて、2014年に全て揃ったといえる。まさに動画広告がブレイクする時期にきている」と強調した。
日本の動画広告の課題は「リーチ」と「メジャメント」
いち早く動画広告に取り組んでいたオムニバス。2013年1月以降、同社が携わった動画広告キャンペーン数は約1年半で累計300キャンペーン、2億ストリームを突破している。
そのキャンペーンの内訳を見てみると、「テレビCMを併用しているキャンペーン」(48.9%)と「オンライン動画のみのキャンペーン」(51.1%)と約半々に。広告主の売り上げ規模としては、500億円以上が37%、1,000億円以上が27.2%を占めており、大手広告主の広告出稿が目立つ。また広告主業種では、情報通信系企業や製造業で割合が高いが、それ以外の業種については偏りもなく、様々な業種で動画広告が使用されていることが伺える。
同社が約1年半にわたって行ってきた動画広告事業の結果を受け、日本における動画広告の課題と対策について「日本の動画広告の課題は、まず配信する枠となる『リーチ』、そして何をもってよしとするかという『メジャメントが足りていないこと』にある」と山本氏は指摘する。
課題その1:リーチ
コムスコア社の調査によると、2014年7月にオンライン動画サイトに約5,920万人に上るユーザーが滞在しているという。かなり多くの閲覧者がいるものの、YouTube以外の動画メディアの認知はまだ十分とはいえず、「広告主が出したくなるような『プレミアム感』のある動画サイトの市場感を作っていく必要がある」と山本氏は語る。
そこでオムニバスは動画広告に特化した配信プラットフォーム『Omnibus Video Exchange』(以下、OVX)を構築。すでに東洋経済ONLINEやクックパッド、Ustreamといった様々な媒体へ連結を行っており、月間約1,000万ストリームのインストリーム型動画広告の在庫を保有。今後もさらに拡充させていきたいという。
課題その2:メジャメント
そして、もう1つの課題である「メジャメント」について。オムニバスでは従来の指標では十分に測定できないと考え、見せることに対する動画独自の効果指標を紹介した。それは、動画広告が何秒間再生されたかという「平均視聴秒数」、どのくらいの人数のユーザーが動画広告をどこまで閲覧したかという「完全視聴率」、そして全配信において動画が再生されたのべ時間「全視聴時間」の3点だ。
また、定量的指標とともに定性的評価も重要な指標だ。オムニバスではマクロミルの協力のもと、「動画を見た後に商品が気になるようになったか」などの態度変容アンケートを実施。今後も案件に応じて継続的に行い、動画広告の効果を可視化していきたいという。
完全視聴割合50%超&クリック率4.36%/オリックス生命保険
ここでオムニバスが数多く手がけた事例の中から、成功事例が紹介された。まず1つ目は、「オリックス生命保険」の事例だ。オリックス生命は、企業のマーケティングデータの集約プラットフォームとなるプライベートDMPを導入しており、チャレンジングな企業風土でも知られている。本事例に取り組むにあたって、テストキャンペーンでアトリビューション効果が見られたことから様々な面から効果検証を行いたい、またもともと若いユーザー中心にオンライン動画へのアクセスが増加しており、将来に向けて動画広告を活用した「勝ちパターン」を見つけたい、という2つの目的があったという。
本事例ではTubeMogulのビデオDSPと連携し、オムニバスの『OVX』でプレミアム媒体へ動画を配信。そして『Omnibus Audience Network』とマクロミルのブランドリフト調査を組み合わせて、効果を可視化させた。
すると、210万インプレッションに対して完全視聴割合が56.54%、クリック単価28円、クリック率4.36%という結果が得られた。バナー広告と比較するとケタ違いのクリック率であり、また定性効果を測定するアンケートの回答についても認知度やブランドへの意識の面で高い効果が得られた。テレビCM単独よりも動画広告のみの接触者のほうがブランドへの認知度が高く、さらにテレビCMと動画広告を組み合わせた場合が最も高いという相乗効果が顕著に見られたという。
これらを鑑み、記憶獲得コストについて見てみると、テレビCMが14.5円、動画広告が9.5円となり、効率的な記憶の獲得ができたといえるだろう。しかしどれだけ多くの人に見てもらえるかという「リーチ」の観点からは、まだまだテレビCMの方が断然広く、ミニマムな予算配分の分岐点を考える上でも「最適な予算配分」が今後の重要課題となる。
動画を見た人の0.74%が検索行動に/マウスコンピューター
そして、2つ目として「マウスコンピューター」の事例が紹介された。目的は動画広告による新規のユーザーの獲得(購買)。View Through Search(ビュースルーサーチ:動画広告を見た後の検索行動/以下、VTS)を中間KPIとして設定し、動画広告からユーザーにどんなメッセージが伝わったのかを測定した。
オムニバスが提供するアトリビューションツール「pandora」とTubeMogulのビデオDSPをインテグレーションし、動画が配信された後のユーザー行動のトラッキングを行った。その結果、完全視聴割合は62.5%に。さらに42.7万インプレッションの中で3,146件、割合として0.74%が検索行動を取ったことが明らかになった。このVTSレートは動画のクオリティによって大きな差が出やすく、オムニバスの案件の中でも過去最高の値だという。さらにVSTを指標として配信サイト別での最適化を実施し、さらに動画配信とバナー配信を同時に最適化することで、CPA(顧客獲得単価)を下げることにも成功した。
「直接的な顧客獲得を目的とした施策はオムニバスにとっても初めてのことであり、そこで高い効果が得られたということで、今後の動画広告の活用法の1つとして可能性が広がった」と山本氏。そして、この2社の事例を通じ、その成功の秘訣は「目的を明確にしたうえで使用するソリューションを設計すること」「クリック、コンバージョンだけでなく動画を見せることに対する効果検証を行うこと」だと語る。
再生回数900万回超でブランド認知効果大/日清カップル―ドル
オンライン動画はシンプルな動画広告としてだけでなく、コンテンツとしての魅力を活かすことで様々な可能性を秘めている。山本氏はここで、大きな話題となった日清カップヌードルの動画広告を紹介。武者姿の若者がブラジルで素晴らしいリフティングを見せるという大きな話題となった動画で、わずか数日のうちに200万回再生された。現時点での再生回数は900万回を超えている。この動画コンテンツにはほとんど商品が登場しないものの、そのブランド認知効果を鑑みると広告としても無視できないだろう。
つまり、企業側にイニシアチブがあり、コストをかけて配信コントロールを行うことで閲覧を保証する「動画広告」もコンテンツとしての魅力を増せば、十分に強いエンゲージメントを実現できる。逆にユーザーが見ようとしなければ見てもらえない「動画コンテンツ」もコンテンツとしての魅力があれば、コストをかけずに閲覧が増え、効果が上がる。
こうした考察から、山本氏は購買行動からみた動画コンテンツの可能性を3つに整理。気づきや興味関心をもってもらうフェーズでは「カップヌードル」のような不特定多数のユーザーにとって魅力的でシェアしたくなるような動画、そして商品の特性や使い方にフォーカスした内容で購買に直結させる動画、そしてもう一つ、購買後の使い方など使用シーンを意識したより具体的な内容に基づく動画があるという。それらを目的に合わせて活用することで、より高い広告効果が得られるというわけだ。
最後に山本氏は改めて、動画広告活用のハードルが下がっており、成功事例も出てナレッジも蓄積してきたことで、広告への動画活用の好機であることを強調。オムニバスとして事例などのノウハウ提供を含め、動画活用の環境を整備していくことを宣言し、講演を終えた。