マーケティングを“経営ごと化”していきたい
押久保:就任されて間もないので、今まさに各クライアントのニーズを把握されている段階かと思いますが、日系企業についてどのように感じられていますか?

佐分利:アバウトな展望ですが、もっと日本の経営層の方々に、マーケティングの価値をご理解いただきたいと思っています。
私は2009年から今回の就任までアメリカにいましたが、外から日本を見ると、ものづくりやサービスの質にかけて世界レベルであることは間違いありません。ですが、近年は中国勢や台湾などの伸長が著しい。そこで競争していくためには、「いいものをつくればお客さんがついてくる」という発想だけでなく、やはりしっかり需要喚起する必要があります。
そのためには、マーケティングを“経営ごと化”することが不可欠です。少し大きな野望かもしれませんが、マーケティングを経営の根幹へと押し上げたいというのが私の考えです。
押久保:マーケティングを“経営ごと化”するというのは、とても腑に落ちる考えだと思いました。それを、アドビとしてどう進めていきたいとお考えですか?
佐分利:例えば、デジタルマーケティングの成熟度と業績には、明らかな正の相関があります。こうしたデータを開示するなどして、重要性を伝えていくつもりです。もちろん、業績がいいから投資もできるという見方もできますが、やはりトップランナーといわれる企業はデジタルにしっかり投資しています。
デジタルの「3P」―Product、People、Process
押久保:では、マーケティングの重要性を理解した企業は、次にどのような観点で進んでいけばいいのでしょうか?
佐分利:我々は、デジタルの「3P」を提案しています。
まずは、プロダクトです。今は複数のベンダーからいい製品が出ているので、自社開発するのはナンセンスですね。比較検討し、自社に合ったものを導入するのが得策です。
次に、ピープル。社内で育成するか、コンサルティングサービスを入れるか、あるいはパートナー企業と組むなど、プロダクトを使いこなせるスキルが必要です。
そして、プロセス。デジタルでは速ければ数秒単位で効果が分かるので、やはり古典的なマーケティング手法とは違います。高速でPDCAを回すという発想と、実践するプロセス策定が大事です。
押久保:中でも難しいのが、人材の部分だと思います。どのように対策をとっていけばよいとお考えですか?
佐分利:これは企業の体質に大きく依存しますね。日本は営業が強い会社が多いと思うので、デジタルを営業部門にひもづかせて、数値で成果を見せながら存在感を高めていくのもひとつの策だと思います。
同時に、企業として意識を持って現場での教育に取り組むこと。各種の育成プログラムや、ベンダーを取り込んでOJTで学ぶのもいいでしょう。
それから、デジタルに自然に親しんでいる20代への世代交代もポイントのひとつです。中長期的には、今スタンフォード大学にはデジタルマーケティング専攻ができていますが、企業に入る前の教育も必要だと思っています。