デジタルコミュニケーションに対応し、お客様に新たな価値を提案するためにデジタルマーケティング室を新設
友澤:この連載は開始からもう2年ほどになりますが、昨年までは比較的プロダクトカットでさまざまな話題を扱っていました。これからは「誰が動かすのか?」ということが大きなテーマになってくると思っています。まさに、組織や人材育成の話ですね。
上代さんとは直近でもJAA(日本アドバタイザーズ協会)のWeb広告研究会のフォーラムでご一緒しましたが、組織論、特にこれまでマス広告を中心にマーケティングを展開してきた“トラディショナル”と言われる大手企業の組織を議論するなら、ぜひ上代さんにと思ってお招きしました。
上代:お手柔らかに頼みます(笑)。
友澤:まずは簡単に上代さんの経歴をうかがえますか?
上代:元々は統計の仕事をしていたんですが、ネットが広がり始めた頃にこの世界に興味を持ち、制作会社などを経て直近では日本マイクロソフトに8年ほど勤めていました。オンラインサービスの広告宣伝やソーシャル全般のマーケティングを担当し、昨年秋、毎日の生活の中にある商品でマーケティングに挑戦したいと考えてキリンに転職しました。
友澤:キリンは、昨年1月に大きな転換期があったんですよね。
上代:ええ。従来型マーケティングから脱却し、デジタルを重視するという姿勢を体現するため、キリン株式会社内に、社内から選抜された人材を集めてデジタルマーケティング室が新設されました。事業会社のキリンビール、メルシャン、キリンビバレッジ内のマーケティング、広告、メディア担当とともに、デジタルを含めたマーケティングを力強く推進していくためです。
皆さんは飲料の専門家、自分はデジタルの専門家
友澤:事業を横断的に見るデジタル専門チームを設けるケースはときどき耳にしますが、入社時はどんな状況だったんですか?
上代:いろいろ調整しなければならないことが山積みでした。まず、デジタルマーケティング室と各事業会社のブランド担当に課せられた目的にも異なる考え方がありましたし、その年の売上も見ている事業会社と、未来への投資を考えるデジタルチームでは視点も違いますし。
友澤:特に大手日系企業だと、本来はプロパーで入社し、その後いくつかの部署を経てマーケティングコミュニケーションを担当する場合が多いですよね。それって会社全体を理解しないとできないので。でもデジタル領域はその専門性から、上代さんのように知見と経験を持ったマネージャークラスの方が外部からリーダーに就任することが多い。今回の就任で、苦労したことや工夫されたことなどはありますか?
上代:1年後は分かりませんが、「皆さんは飲み物のプロ。私はデジタルのプロ」という立ち位置を明確にしていますね。今から私が飲み物のプロにはなれないので、皆さんのお手伝いをするために来ました、と。
入社当初はどうしても「マスorデジタル」という雰囲気がありましたが、「いやいやそうではなくて『マスandデジタル』ですよ、掛け算なんですよ」と社内で言い続けていますね。消費者のタッチポイントも増え、マスだけデジタルだけという媒体別の戦略ではだめだと思うんですよ。社内でも啓発をし続けて、考え方について理解を得られ始めたかなというところです。