カスタマージャーニーとCxDはどう違う?
このようにカスタマージャーニーの限界を感じた井上氏は、「Customer Experience Diary(CxD)」という新たなフォーマットを作成した。
「弊社でも特に新しい車のローンチキャンペーンのような3~4か月の短いスパンではカスタマージャーニーを使っています。CxDはもう少し長期。1年くらいのスパンでブランドを考えていくにあたって活用できないかとトライアルで始めているものです」と語り、井上氏はカスタマージャーニーとCxDの違いを比較した図を示した。

CxDでは縦軸が時間であり、横軸に「activity(活動)」「brand(ブランド)」「description(体験した内容)」「intensity(強度)」などが置かれる。「intensity」については、ブランド体験のインパクトによって4段階で評価している。
「これに取り組んでみると『メディアによるブランド接触が、いかにintensityが弱いか』『身近なもので愛着のあるブランド接触をすると、強いintensityを持ってブランド体験が醸成されるか』ということがわかると思います」と井上氏は話す。
こうしてメディアのもたらすブランド体験の総体的な位置を明確にしてみると、ブランドにとって新たな媒介物(メディア)が見えてくる。
「CxDはまだ開発したばかりのフレームワークなので、現時点での具体的な打ち手の道筋は見えていませんが、既存のメディアを通じたブランド体験のintensityを浮き彫りにするだけでも十分に価値があるのではないかと考えています」(井上氏)
井上氏の話を受け菅氏は「いい意味で井上さんと橋本さんは対照的」と分析し、次の違いがあるとした。
「橋本さんは『今ある接点をどうソリッドにつないで結果を出すか』に着目されているのに対し、井上さんは『新しい顧客体験の創出』に重きを置かれている。双方の側面を理解することが非常に重要。企業によって活用目的のゴールに違いがあるのは当然ですし、色々な正解があっていいのではと思います」(菅氏)
まずは、カスタマージャーニーにおける役割整理が大切

ディスカッションが終盤に差し掛かったところで、菅氏はカスタマージャーニー作成においてまずは役割を整理することが大切と語り、次のように述べた。
「結局、カスタマージャーニーを分解してみると、『顧客の把握』『意識/行動の整理』『シナリオ設計』の3つのフェーズに分けられる。今日の橋本さんの話は『シナリオ設計』に近い話で、井上さんの方は『意識/行動の整理』のところだったのかなと。一言でカスタマージャーニーと言っても、『どのプロセスで』『どんな目的で』という使う軸によって、変わってくるので、そもそもの役割整理をしておくことが大事かなと思っています」

そして、菅氏はカスタマージャーニーがトレンドワードとなっている今だからこそ、次の3つのポイントを押さえることが重要だと強調した。
Findings
- フレームワークの役割を「現場」で定義する
- 活用のゴールを定義する
- ゴールまでのワークフロー(プロセス)を定義する
菅氏のまとめに続き、橋本氏、井上氏からは次のようなメッセージが会場へ贈られた。
「何事もやらないよりはやったほうがいいと思うので、前向きにトライしてください。“とりあえず”作ってみるというのはどうかなとは思うんですけど、試してみることがすごく大事だと思います」(橋本氏)
「今回の議論で私自身もよくわかったが、カスタマージャーニーにはいろいろな定義がある。『カスタマージャーニーって何でしたっけ?』と確認して、お互いの認識をすり合わせるところから始めることが、第一歩なのかなという感じがしました」(井上氏)
最後に菅氏は「今日は事業会社側の方と支援会社側の方がいらっしゃると思いますが、マーケティングで成果を上げるというゴールは共通していると思うので、どんなフレームワークを使うにしても、フレームワークやプロセス自体を合議しながら修練していくと、きっとどの会社さんにとっても、うまいカスタマージャーニーの使い方が見つかるのではないかと思っています」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。