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熾烈を極めるアプリ市場でいかに成果を出していくか、イグニス・セプテーニ・ヤフーが進める広告運用と戦略

 アプリの増加によって、プロモーションにおけるCPIは高騰の一途だ。頭を悩ます企業も多いだろう。どのように広告効果を高めていけばいいのか。今回、ゲームアプリ「ぼくとドラゴン」など多彩な人気アプリを提供するイグニス、インフィード領域に注力する広告代理店のセプテーニ、そしてヤフーの担当者にアプリプロモーションの戦略や考え方を聞いた。

需要と供給バランスが崩れる今、CPI偏重では通用しない

MarkeZine編集部(以下、MZ):日本で流通するアプリが急増し、激戦となる中で、広告効果を高めることは難しい状況にあるといわれています。それでも、イグニスさんのアプリは高い広告効果を得てヒットを連発されています。どのような戦略・対策をとられているのでしょうか。

高原:仰るとおり、運用型広告におけるCPIは高騰し続けています。2016年に入ってからが特に顕著で「予算内でCPIを安く取れればいい」という時代は終わってしまったと感じています。ユーザーさんとしても、ゲームアプリは国内・海外からの供給量が増え、「ゲームアプリの広告は見飽きた、どれも同じに見える」というのが本音なんじゃないかな、と。

株式会社イグニス PRM TEAM 高原康生氏
株式会社イグニス PRM TEAM 高原康生氏

 つまり、需要と供給のバランスが崩れており、「去年と同じ手法ではダメ」な状況なのです。ですから、ユーザーとなっていただける方にどうやってリーチし、どう適切に広告を出していくか。そもそもどこにそういう人がいるのか、どうしたらファンになってもらえるのか。そうした広告の基本思想に基づいた施策を丁寧に行うことを重視しています。

 さらに、サービスを使わなくなってしまったユーザーさんへの再アプローチの必要性も実感しており、まさに今急ピッチで各種施策を取り組んでいるところです。

MZ:そんなイグニスさんの広告戦略において、出稿先の一つに「Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(以下、YDN)」がありますね。こちらをどのように評価なさっていますか。

高原:YDNは「CPIに囚われず、納得できる効果を出すことが重要だ」という答えを体現されている広告媒体だと思いますね。事実、当社の実績でも、確かにCPIはかなり高いです。ECのCPAかなと(笑)。ただ同時に最もいいユーザーさんが獲得できています。つまり当社のサービスをしっかり使ってくださる、いわゆるLTV(顧客生涯価値)の高いユーザーさんにリーチできている。

 もっというと、私たちはLTVをベースにして目標CPIを算出しているのですが、YDNの場合、他の2~3倍かけても十分元が取れています。

運用は「どこで・誰に・何を出すか」に注力

MZ:実運用はセプテーニさんが担われているそうですが、どのような工夫や留意点のもと、成果を上げられているのでしょうか。

小川:当社はネット広告代理店として、近年ではスマートフォンを対象にした広告に注力しています。特にインフィード領域に力を入れ、顧客側のニーズと媒体の特性をともに深く理解することで、広告効果を高める努力をしています。今回の「イグニス・YDN」の施策は、まさにそのマッチングが成功した例といえるでしょう。

右:株式会社セプテーニ メディアグロース本部 スマートデバイス部 シニアコンサルタント 小川陽平氏、左:同コンサルタント 井上剛貴氏
右:株式会社セプテーニ メディアグロース本部
スマートデバイス部 シニアコンサルタント 小川陽平氏、
左:同コンサルタント 井上剛貴氏

井上:広告運用においては、次の三つを特に意識して行っています。まず、一つ目はメディア選定の軸として“どこで”出すかということ。二つ目は正確なターゲティング機能を用いて“誰に”出すか。そして三つ目は、その両者をマッチングさせるクリエイティブとして“何を”出すか

 例えば、イグニスさんの「ぼくとドラゴン」というアプリの広告施策でリーチしたいのは「30~40代男性」でした。これはYDNの主要ユーザー層とマッチしています。CPIだけで見れば他にも低いところはありましたが、獲得したユーザーさんのリテンションレート(維持率)などを加味すると、良いユーザーさんを獲得していくことが有効だと判断しました。

 また、YDNのターゲティング機能は非常に優れており、年代や性別などによって細やかにクリエイティブの出し分けができます。“誰に”“何を”を精緻に実行できる点は非常に大きいですね。

豊富なインベントリから傾向を見出す細やかな分析

MZ:30~40代男性というターゲット設定は、はじめから狙っていたのですか。それとも、運用される中で見出されたのでしょうか。

小川:両方ですね。まず仮説を立てて、配信後に検証し、さらに最適化しています。仮説についてはイグニスさんから知見を得たり、議論したりしながら深めていきました。

高原:おそらく「ぼくとドラゴン」のゲームシステム的にガラケーでゲームを楽しんでいた人になじむはず。となると、親和性が高いのは30代前後の方だろうという仮説は当初から立てていました。ですが、こればかりは、実際にやってみての結果論です。

「ぼくとドラゴン」
「ぼくとドラゴン」

 弊社では、新しい広告を実施する際のハードルはとても低くて、新規メディアでも期待できそうなものはとりあえずやってみて、ダメだったら止めればいいじゃないかというくらい。先行者になるメリットを重視しています。その中で【配信面の性質とeCPMのバランス】【運用の許容度と透明性】【広告の在庫量・拡張性】などを見定めながら、注力するメディアを選んでいきます。特に何度か施策を行った後、翌月には獲得がなくなった……ということがないよう十分なインベントリは大切ですね。大きな予算を投じて施策に注力できる方が効率的なので、ヤフーさんはその意味でも魅力的ですね。

 実際、YDNは「ぼくとドラゴン」開始間もない頃から、1年以上途切れることなく継続出稿している唯一の広告サービスです。

井上:「誰に出すか?」と同様、「何を出すか?」というクリエイティブの検証についても同じことがいえますね。他媒体での全体的な反応を見ると、キャラクターの羅列や世界観の表現などが効果的ですが、実は30~40代男性に限定すると「特定キャラ」や「ガチャでの当たり」をアピールすると効果が高いのです。その気づきも実際にYDNに投下して検証した結果、見えてきたものでした。

安藤:セプテーニさんのクリエイティブの検証に対するリソースの投下量は、ヤフー側から見ても圧巻ですね。入稿されるクリエイティブは圧倒的に多いし、入れ替えも頻繁。常に細やかに効果検証をされているのがよくわかります。私たちもその思いに応えられるよう、さまざまなリクエストに早く対応できるよう努力しています。

左:ヤフー株式会社 マーケティングソリューションカンパニー 営業3部営業2 マネージャー 安藤祐一郎氏、右:同営業本部 営業3部営業2 足立秀次氏
左:ヤフー株式会社 マーケティングソリューションカンパニー 営業3部営業2 マネージャー 安藤祐一郎氏
右:同営業本部 営業3部営業2 足立秀次氏

小川:セプテーニとしては運用商材が多様化する中で、付加価値を提供していく箇所は「クリエイティブ」だと考えています。将来的にはAIの台頭などでよりシステマティックな広告運用の時代が訪れるかもしれませんが、「人間の感情」を読み取り、理解できるのは人間。そこを加味した戦略設計やクリエイティブに強みを発揮していきたいと考えています。

足立:なるほど。また、イグニスさんが目標にしているLTVについても、セプテーニさんがしっかりと握っている点もさすがだと感じます。LTVという目標を共有した上で、施策としてどう設計するか。単に広告のパフォーマンスに一喜一憂するのではなく、施策のKPIとして何を見て、どう改善するかまでしっかりと理解されている印象がありますね。

次に打つべきはユーザーの感情に寄り添ったリテンション施策

MZ:現在の施策の結果を受け、YDNの広告配信について、次にどんなことに取り組もうとお考えですか。

高原:まず新規獲得について、基本的には配信面、ターゲティングごとのユーザーさんの事をより深く理解することに努め、クリエイティブも含めて可能な限りそれぞれのユーザーさんに寄り添った広告配信ができればと考えています。その過程でDMPの活用もしていきたいです。

 そして、かつてサービスを利用していただきながら止めてしまった方や、だんだん利用頻度が落ちている方に対しても、なんらかの働きかけをしていきたいですね。おそらく、こうしたリテンションのための施策は、新規獲得よりもより細やかに、気持ちに添ったメッセージや手法が必要になるでしょう。

 そのためのデータ活用には大いに期待したいところです。正直、海外のメディアさんに比べると日本ではまだまだデータ活用が遅れています。しかし、ヤフーさんには質・量ともに豊富なデータがあるので、データ活用を行った時にどのような効果が得られるのか。個人的にそのポテンシャルに大いに期待しています。

小川:セプテーニとしてもイグニスさんの要望に応えてDMPを活用した広告出稿を行うにあたり、まさに拡張配信やデータを活用したリテンションに取り組もうとしているところです。加えて、ユーザーさんのモチベーションに広告がどう影響していくかというのも、今後対応していくべきところだと考えています。

井上:現在のデータ活用としては、コンバージョンした人、興味を示さなかったと思われる人を広告配信の対象から外すということをしています。そうすることで、より必要としている人に出せるということになり、価値が高まりますからね。

高原:今後への期待という意味では、データと連携した動的な施策をリテンションでやりたいですね。

足立:その点はヤフーへの期待として、ひしひと実感しています。これまでは新規獲得、それもLTVの高い優良顧客候補の確保がヤフーへの期待としてありました。加えて今後は、データ連携型の動的なリテンションに取り組んでいきたいと考えています。

 例えば、これまではインストールした人には広告を出さないというのが定説でした。確かに「このゲームをやりませんか」という内容なら意味がないでしょう。しかし、現在人気のガチャや開催中のキャンペーンといった内容の訴求ならば、サービスを使わなくなってしまった人にも響く可能性がありますよね。サービスの使用状況によってコミュニケーションを設計できるようになれば、打ち手の考え方も変わってくるはずなので、ユーザーのプライバシーにも十分配慮しながらこういった施策を進めていければと思います。

把握しにくいDL後のユーザー動向、分析データがカギに

MZ:実際に運用を担われているセプテーニさんからヤフーさんに「こんなデータが欲しい」など、リクエストはありますか?

小川:例えば、インストール済みのユーザーさんといっても、すぐに止めてしまったのか、1週間遊び倒したのか、または早速課金をしているのかで、「ぼくとドラゴン」へのモチベーションは異なります。そうしたユーザーさんのダウンロード後の状況ごとに、クリエイティブを掛け合わせてアプローチしていきたいですね。

安藤:当社としても、できる限りユーザーさんの傾向をヤフーの中で分析して、細かく精度高く、「知りたいユーザーのセグメント」がわかりやすいように提供できればと思っています。

高原:リテンションは重要です。ただ、CRMの領域でこれまでと同じ頭で考えられないので難しいですよね。ウチの場合は、まだまだ社内の分析環境や実行体制などが整っていなくて、ECの会社さんなどがやっている様な外部・内部施策は打てていないので課題意識を感じています。

 webとは違う技術的・環境的な制約を踏まえながら既存ユーザーさんとの関係をどう深くしていくか、関係をどう指標化していくか。おそらく各社さん抱えている課題感なんじゃないでしょうか。

小川:そうですね。安いCPIで獲得するために使うのか、CRMという形でLTVやリテンションに活用していくのか、顧客のニーズに合わせて戦略は柔軟に変えていく必要があります。

安藤:私たちもアプリのマーケットが今後成長していくために、ヤフーの媒体価値をしっかり伝えねばと思っています。アプリのデベロッパーは年々増えており、中には資金的規模の小さいベンチャーも多いです。となると、どうしても「短期的な獲得」に目線が行きがちですが、しっかりと利益を出し続けるにはやはり長期的な施策が必要です。クライアント、代理店、そしてヤフーが協力して、本質的な広告の在り方について社会を啓蒙していくことの重要性を感じています。

足立:そうですね。ヤフーの中でもメディアはメディアの、広告は広告として、そして両者をブリッジしてヤフーとしてどうあるべきか議論がなされています。その中で“強み”を磨きつつ、ユーザー企業や代理店が使いやすい形で広告プラットフォームとして提供できればと思っています。例えば、日本のネットユーザーの約8割をカバーし、年代も男女比も極端な偏りがないという点はヤフーの強みの一つですが、それをどう分析して提供するか。それが私たち広告担当の役割と考えています。

チームとして強みを持ち合いユーザーに適切な価値を提供

MZ:みなさんのお話を伺うと、様々な課題感を持ちながらも、それぞれがシームレスにつながり合うことで施策を成功に導いているように感じます。

高原:そうですね。それを実現する為に何よりウチの会社が大切にしているのがスピード感です。ひょっとしたら、CEOやCTOが代理店出身者で構成されている背景があるからかもしれません。

 アプリは「ポケモンGO」の例にもあるように急に突風が吹く時がありますよね。それを察知して、運用型広告の「今が踏み時」というタイミングでアクセルを踏む決断ができるか、その決断を素早くキャッチしてくださるパートナーがいるかオーダーに対して適切な広告配信を実行してくださるメディアがいるか、その三つが揃って初めて効果を最大化できる。「ぼくとドラゴン」ではそれが実現できていると考えています。

井上:ジャッジの早さについては、イグニスさんは本当にやりやすいですね。仕事柄「踏み時」がわかるのですが、そこにクライアントさんが反応できずに、こちらが足踏みしてしまうケースも存在します。イグニスさんとはそこが共有できています

高原:そこには信頼関係があると思います。だからこそスピーディな連絡・相談・決断も可能になる。お互いにレスポンスの早いコミュニケーションは、すごく気持ちがいいですよね。

 信頼関係を築くために、私たち広告主もどうしたら代理店さんやメディアさんに気持ちよくやってもらえるかと“営業”する気持ちを忘れないようにしたいと思っています。

安藤:メディアとしても「踏み時」の創出とそれに伴うスピーディなレスポンスは、しっかりと提供していきたいですね。以前はマスとデジタルの広告はどこか対立した関係に捉えられがちでしたが、むしろ今はテレビCMで加速してデジタルでリーチするというような連係が広告効果に貢献することが認知されるようになってきました。そうした価値についてマーケットに広げていきたいですね。

MZ:みなさんのお話を伺うと、広告主・代理店・媒体社という単純な縦割りの関係ではなく、チームとしていかに進めていくかも重要だと感じました。本日は、興味深いお話をありがとうございました。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウマミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの製作などを経て独立。ビジネス系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2016/09/29 10:00 https://markezine.jp/article/detail/25184