商品の本当の価値を知ってもらうには
3社は以前から従来のリターゲティング施策だけでは広告効果が十分に見込めなくなってきていると感じていたという。そこでまず、3社が共同で取り組みを行う前に、それぞれが抱いていた課題を聞いた。
まず、昨年8月から“予防医学”をタグラインに掲げ、プロモーションを実施してきたアンファー。三山氏が統括するスカルプD事業は、ネット広告への出稿やマス広告への出稿などを実施してきた結果、薄毛用シャンプーのイメージが定着し、抜け毛・薄毛ケアをしている10代から60代男性の認知は80%を誇る。しかし、そのイメージが強すぎて、「本来伝えたかった商品の良さが伝わっていなかった」と三山氏は語る。
「当社と頭髪専門クリニックが共同研究を行ったところ、薄毛治療の効果を左右するのは頭皮環境であることがわかりました。そのため、毎日のシャンプーを変えるべきだと考え、スカルプDを開発した経緯があります。“シャンプーで頭皮を洗う”という発想は今でこそ当たり前ですが、発売当時の11年前は斬新でした。しかし、“他製品との違い”や“頭皮を洗うことの重要性”がまだ理解されていない感覚があります」(三山氏)
LPや同社の持つオウンドメディアなどでは、頭皮環境や自社製品の品質をきちんと語るコンテンツが充実している。しかし、プッシュ型のディスプレイ広告などのクリエイティブでは、クリックの効率を考えるとどうしても“売れているシャンプーNO.1”などの情報にとどまってしまう。そのため、同社の持つコンテンツをどのように届け、より深く商品を理解してもらうかが、課題となっている。
読まれるコンテンツマーケティングを
次に広告代理店であるGMO NIKKOで広告事業本部の本部長を務める佐久間氏は、クライアントであるアンファーと、これまで購買促進を目標とし、効率を重視した広告配信を行ってきた。一方で、アンファーの「潜在顧客にコンテンツを届け、商品を理解してもらいたい」という要望に対して、明確な解決策を提示できていないことに課題を感じていた。
「予防の観点からすると、頭皮を洗うことは薄毛の方以外のあらゆる方にニーズがあるはず。しかし、購買の目標達成も大切。そこをどう共存させていくかは非常に難しいと感じていました」(佐久間氏)
メディア企業として様々な広告メニューを提供してきたヤフーでは、「コンテンツを届けるというニーズの高まりに対応しなければならない」と、同社マーケティングソリューションズカンパニー Yahoo!コンテンツディスカバリー サービスマネージャーの宇都宮氏は課題を語る。
「コンテンツを届けたい企業は増えており、ヤフーのサービス利用者側も広告よりコンテンツを求める思考が強くなっています。ただ、コンテンツが読まれるための工夫が出稿主、並びに当社のようなメディア企業でまだ十分でない部分もあり、ユーザーに届ききれてないと感じています」(宇都宮氏)
同社では、この背景からコンテンツを届けるための掲載枠を整備するため、昨年春にコンテンツマーケティング事業を立ち上げた。
ヤフーが整備したコンテンツを届けるための枠とは
3社が共通して挙げた「コンテンツをどう届けるか」という課題。この課題解決に役立ったのは、「Yahoo!コンテンツディスカバリー」とヤフーの「インフィード広告」だった。
Yahoo!コンテンツディスカバリーは、ヤフー内の記事を読了したユーザーに表示されるレコメンドモジュールに、関連リンクを掲載できるもの。
類似ユーザーや情報の鮮度など、100以上の要素を組み合わせて最適なコンテンツを表示することができるだけでなく、記事の読了後にユーザーと接触するため、情報感度が高いユーザーにアプローチできるという特徴を持つ。
一方、ヤフーのインフィード広告は、スマートフォン向けに最適化されたYahoo! JAPANのトップページをはじめ、タイムライン型のページに特化して配信が行える。そのため、ユーザーにストレスを与えずに情報を届けることができるほか、ターゲティング設定も細かく行えるので、コンテンツを見てもらいたいユーザーへ絞って配信できる(インフィード広告についての詳細はこちら)。
このコンテンツを届けることに強みを持つ2つのソリューションへのニーズは急増している、と代理店として同ソリューションを提供している佐久間氏はいう。
「これまでは、潜在顧客へコンテンツを届ける手段が少ない上に、コンテンツのレコメンドに関しても精度の高いサービスがあまりありませんでした。しかし、Yahoo!コンテンツディスカバリーとインフィード広告の活用で、ユーザーインサイトに合わせてコンテンツを適切に届けられるようになり、認知から購買までの効率的なWEBマーケティングが実現できるようになりました」(佐久間氏)
LPをプッシュしないコンテンツで展開
では、実際にアンファーではどのような施策を行ったのだろうか。同社で広告・宣伝の戦略を練る廣田氏と三山氏は、購買重視のLPから、情報が伝わる記事コンテンツに近いLPをリンク先とすることで、商品や企業への理解を深めてもらうことに重きを置いた。
「単に“にぎわっている企業だよね”ではなく、“熱心に研究開発している企業なのだ”ということを知っていただければ、商品にも興味を持っていただけると思いました」(廣田氏)
「情報過多のこの時代、スカルプシャンプー市場には36ものブランドがあるといわれています。その皆が似たり寄ったりのことをアピールする中で、ユーザーは正しい情報を選ばなければなりません。その手助けを、従来のプッシュ型ではないスタイルで行いたかった」(三山氏)
そして佐久間氏は、そのコンテンツを適切なユーザーに届けることを目指し、Yahoo!コンテンツディスカバリーとヤフーのインフィード広告を出稿先として提案。記事コンテンツを届け、理解してもらうための広告出稿が行われた。
未接触ユーザーの取り込みに成功
また、佐久間氏は効果を高めるために、Yahoo!コンテンツディスカバリーとインフィード広告それぞれで目的を分けて配信したという。
「Yahoo!コンテンツディスカバリーは、予防医学の考えや、医師の研究に基づく内容を中心にし、商品そのものにはあまり触れないコンテンツを潜在的なターゲットに配信しました。一方インフィード広告は、ターゲティングして配信できるため、記事コンテンツではありながら、商品価値や他社と比べたときのメリットなど、商品のより深い理解と購買意欲の向上を狙っています」(佐久間氏)
2つのソリューションを活用した結果、これまで行ってきた施策に比べ、多くのユーザーが記事コンテンツを閲覧し、これまで接触していなかったユーザー層とのエンゲージメントを高めることができた。
「まだ施策の途中で、かつ潜在層向けの施策であることから、すぐ購買などの数字に反響があるとは思っていません。ただ数ヶ月後に、これらの施策で接触して商品に興味を持ち、広告や実店舗などで再接触した際に、購買へのモチベーションにつながると考えています」(廣田氏)
ビッグデータや動画をフル活用して、より強力な施策へ育成
最後に、それぞれの今後の展望について伺った。佐久間氏は、「パーチェスファネル毎のユーザーインサイトを研究し、潜在~顕在層毎に適切なコンテンツを届けることでクライアントの課題解決につなげたい」と語った。
次に三山氏は、「なぜスカルプDなのかというメッセージや思いを届けるコンテンツ制作に注力していきたい」と語る。
「スカルプDといえばシャンプーのイメージが強いですが、実は頭皮ケアに着目したプロテインやスタイリング剤など、様々なニーズに対応できるよう商品ラインアップを拡大しています。そういった情報も、適切なコンテンツにしてユーザーに届けたいですね」(三山氏)
一方、廣田氏は、コミュニケーション全体の再設計を今後の目標に掲げた。
「例えばスカルプDをあまり知らないユーザーに対しては、コンテンツを活用してコミュニケーションを取り、すでに興味を持ってくださっているユーザーに向けては、検索やバナー、店舗など様々なところで接触をはかり、最終的には購入していただけるようなコミュニケーションを設計したいですね」(廣田氏)
そして宇都宮氏は、Yahoo!コンテンツディスカバリーのサービス責任者として、より良いコンテンツマーケティングを出稿主が行えるような支援を行っていきたいという。
具体的には、コンテンツ配信の窓口を作るだけでなく、制作部分までも請け負っていく。さらにYahoo!コンテンツディスカバリーに関しては、ヤフーが持つビッグデータを活用した独自のターゲティング機能の追加、動画フォーマットへの対応なども検討している。
コンバージョン偏重でリターゲティング広告を大量に出稿しているだけでは、いずれは顕在層のユーザーが少なくなり、効果が十分に出にくくなることも考えられる。今後、コンテンツを活用した広告出稿を行えるかどうかが、潜在層の取り込みの成否を左右するかもしれない。