コミュニケーションチャネルは大幅に変化している
エクスペリアンジャパンは現在、マーケティングオートメーション(以下、MA)「CCMP(Cross-Channel Marketing Platform)」の導入支援に力を入れている。CCMPでは、購買履歴やWeb上の行動情報など散在したデータを統合管理。そのデータをもとに配信シナリオを設計し、メールやLINE、SNS、アプリでのプッシュ通知などへのクロスチャネル配信を可能にする。これら一連の機能をワンプラットフォームで提供するのが特徴だ。
同社の北村氏は、このCCMPの提供に力を入れている理由を消費者と企業、それぞれの立場から語った。
企業ニーズ高まるクロスチャネルへの配信
まず北村氏は、同社が行った『メール&クロスチャネルユーザー動向調査2016』の中から、普段企業や店舗から送られてくる情報の取得、閲覧に使っているメディアに関するデータを提示した。
そのデータによると、メールが依然として1位であることは変わらなかったものの、LINEが前回調査に比べ大幅に伸長し、FacebookやTwitterなどのSNSも伸びていることがわかった。北村氏はこれに対し、「情報取得手段が多様化している」と語り、クロスチャネル対応の重要度が高まっていることを明らかにした。
一方、企業側では、CCMPのようなクロスチャネルへの配信を最適化するツールに対するニーズが高まっているという。エクスペリアンジャパンは、2016年6月に開催した「エクスペリアンクライアントサミット」にてアンケートを行った。
同イベントはエクスペリアンジャパンが提供するメール配信システム「MailPublisher」のユーザー向けに開催されたもので、メール配信を担当し、MAに関心の高い来場者が多く集まった。
当初、エクスペリアンジャパンとしては来場者の多くが「メールマーケティングの効果向上」に課題を抱えていると思っていた。しかし、アンケート結果をみると、導入意欲の高い顧客ほど「メール以外のチャネルも実施したいが対応できていない」ことに課題を感じていたという。
北村氏は2つの調査結果から、消費者側の情報取得手段の多様化に対し、企業側の対応が追い付いていないこと、そして企業はクロスチャネル対応に力を入れていかなければいけないことを示唆した。
こうした市場や顧客の変化を受けて、いち早く対応した企業がオイシックスだった。同社の米島氏が所属するEC事業部では、CCMPを活用したクロスチャネル対応の強化を行い、顧客とのコミュニケーションを深めているという。
同社では、PC向けのサイト改善に注力しすぎた結果、スマートフォンへの対応が遅れ、ユーザーの利便性を一時的に低下させてしまうということが過去にあった。その失敗経験を活かし、CCMPを活用したクロスチャネル対応の強化をいち早く行った。その第一弾がLINEを活用した施策だという。
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オイシックスが掲げる3つのマーケティング戦略
まず、施策について紹介する前に、オイシックスのマーケティングの現状を紹介したい。同社は日常食品のEC事業を展開しており、11万世帯が利用し、売上高は200億円を越える。同社はその中で、季節のおすすめ商品や、人気のある商品を毎週届ける「定期ボックス」というサービスを展開している。同サービスでは、注文期限内であれば配送物や配送日を何度でも変更できるなど、日常食品という商材特性に合わせたサービス設計が行われている。
マーケティングに関しては「顧客創造サービスづくり」「新規獲得」「LTV向上(Life Time Value:顧客生涯価値)」の3つを戦略として掲げ、CCMPに関しては「LTV向上を目的に活用している」と米島氏は語る。つまり、顧客に長くサービスを使ってもらうための戦略を推進するツールの1つとして採用したという。
顧客満足度をLINEで引き上げる
では、オイシックスはCCMPを導入するまでに、どういった課題を抱えていたのだろうか。同社では定期ボックスの利用者向けに毎週木曜日に季節のおすすめ商品や人気商品の提案を行っている。ユーザーは提案された商品から吟味して、締切り期限までに追加・削除を行い、注文を確定させる。
ただ、何もしなければそのまま提案した商品が届くため、苦手なものが入っていたり、すでに購入済みのものと重複したりとミスマッチングが生じることがある。当然それを繰り返せば、顧客満足度が下がってしまう。これまでオイシックスはこの事態を防ぐため、締切り前にPCでのメールやSMSを利用して通知を行っていたが、開封したときにはすでに締切りをすぎていたり、そもそも開封されなかったりといった課題があった。
そこで、オイシックスはCCMPを活用し、変更期日の2日前までに変更やキャンセルがないサービス利用者に対してLINEで知らせるサービスを開始した。すると、LINEの持つリアルタイム性という特性が功を奏し、メッセージに対する反応率が高まった。同社ではこの反響の高さを受け、タイムセールなど即時性が高いコンテンツの通知などに活用するようになったという。
通常、LINEと自社顧客IDを紐付けてメッセージの配信を行う場合、LINEが提供する企業向けAPI「LINEビジネスコネクト」を活用する必要がある。同社もその導入を検討していたが、自社開発での導入だと、LINE側のシステム変更に合わせて変更しなければならず、それが原因で躊躇していた。それがCCMPを活用したことで、起案から実装までわずか1ヶ月強の期間で行うことができた。
コミュニケーション設計に必要なのは長期的なつながりの形成
北村氏はオイシックスの事例に対し、「クロスチャネル対応を強化していく中で、どのようにコミュニケーションを設計したか?」という疑問を米島氏に投げかけた。
その疑問に対し米島氏は、「長期的なつながりを常に重要視した上で設計している」と答え、長期的なつながりを形成するための観点を2つ挙げた。
1つは、ユーザーごとに情報を受け取りたいチャネルが異なるという点だ。先述の調査にもあったように、チャネルを使い分けて情報を受け取りたいと考えているユーザーは多い。オイシックスが新たにLINEのチャネルを追加したのも、ユーザーが情報を受け取ることのできるチャネルを増やし、つながりを持続させているのだ。
もう1つは、ユーザーごとに情報に対する受け取り方が異なるという点だ。例えば、ユーザーが欲していそうな「変更締切りの通知」でも、毎回オイシックスの提案するものを決まった日時に届けてほしいユーザーにとっては、大きなお世話となる。一方、ユーザーから嫌われそうな「新製品情報」でも、毎回新しい提案を心待ちにしているユーザーにとっては届けてほしい情報になる。
このようにコンテンツに対する受け取り方はユーザー毎に異なるので、そのことを前提としたコミュニケーション設計が重要となる。
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カスタマージャーニーで成し得ないコミュニケーション設計を
「ユーザーごとに情報を受け取りたいチャネルは異なる」「ユーザーごとに情報に対する受け取り方が異なる」ということを前提に置いたとき、北村氏は「顧客視点のクロスチャネル活用を実現するためには、カスタマージャーニーの設計は必ずしも適切な手段ではない」と語る。
なぜなら、チャネルの多様化と情報に対する受け取り方の違いを考慮しようとした場合、カスタマージャーニーの数は膨大になる。それを完全に網羅しマニュアルで設計に落とし込むのは事実上不可能だからだ。結果として「企業都合の限定的なシナリオの設計にとどまっている。そのコミュニケーションは真の顧客視点とはいえない。」と北村氏は説明した。
米島氏は北村氏の言及を受けて、「弊社では非常にシンプルな方法で顧客視点のコミュニケーション設計を実現しようと考えている」と語った。その方法とは、顧客が情報の種類に応じて受け取るチャネルを自ら選べるようにするというものだ。これが「顧客とチャネルを結びつける」アプローチである。
例えば、締切り通知に関しては重要度が高いためLINEでほしい、新製品情報に関しては、たまに見る程度で良いのでメールでほしいなど、自らの情報取得のスタイルを選ぶことができる環境だ。具体的には、下記図のように、配信コンテンツに複数チャネルを対応させ、ユーザーが選択できるようにするという展望がある。
コミュニケーション設計時に注意すべき3つのポイント
では、顧客とチャネルを結びつけるアプローチと、カスタマージャーニーに基づいたシナリオ設計では何が違うのか。北村氏は以下の3点を挙げた。
1.企業視点ではなく、真の顧客視点である点
カスタマージャーニーが企業側の仮説に基づいたものだとすると、それが顧客にとって最適とは必ずしもいえない。一方、顧客とチャネルを結びつけるアプローチは、お客様側の意向に沿った柔軟な対応ができ、完全に顧客視点といえる。
2.実現性が高いという点
企業側が顧客毎にカスタマージャーニーに基づく「シナリオ」を用意するのには膨大なリソースと工数がかかる。一方で、このアプローチにおいては、顧客が情報取得方法を選べる「環境」を用意すれば良い。CCMPであれば容易に構築可能だ。
3.顧客と長期的なコミュニケーションが可能になるという点
初期の取り組みとして、できるだけ多くの顧客をさまざまなチャネルと紐付けられるようにしておくというのは、その後さまざまなシナリオに活かすことが可能になり、結果的に長期的な効果につながる。
「ユーザーに情報を取得するチャネルを選ばせた方が、設計しやすく、具体的なニーズがわかるため実運用に落とし込みやすい。何より、顧客の意思を元に配信するため、真の顧客視点といえるのではないでしょうか」(北村氏)
北村氏によれば、その中でも特に様々なチャネルで顧客とつながっている状態を作ることが重要だという。例えば、メールのみでユーザーとつながっていたとしても、今後顧客がメールを使わなくなるかもしれない。複数チャネルで顧客接点を作っておけば、特定のチャネルで情報を届けられなくなっても、つながりを保つことができる。
「個別のキャンペーンシナリオを洗練させていくことと並行して、顧客とチャネルの紐付けをどの程度進められるかがMA活用における重要なカギとなる」と北村氏は語り、講演を締めくくった。
マーケティングオートメーション『4つの活用事例』を紹介
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