触れることで動画が持つパワーを活用する「TIG」
見る動画から、触る・触れる動画へ。新しい動画活用の1つとなりそうなのが、パロニムのインタラクティブ動画サービス「TIG(ティグ)」だ。
同社の代表取締役の小林道生氏は、かつて放送局向けの動画サービス事業に8年間携わった経験を持ち、動画の力に魅せられてきた人物だ。
ドラマで女優が着ている服が飛ぶように売れたり、情報番組で紹介された店が一躍大繁盛になったりと、動画には多くの情報量や視聴者を行動へ促す力がある。
これを身近に感じていた小林氏は、スマートフォンの登場で動画が今後メインのフォーマットになると確信。実際、デバイス・通信回線の進化に合わせて、手元で動画を見ることが当たり前になった。そして「動画は見るものから触る・触れるという世界に変わるとおもしろいのではないか?」と考え、TIGを企画・開発した。
また小林氏は、認知から興味を持ち、検索して情報を得るという現在の消費行動プロセスには長いリードタイムが発生してしまうと指摘。さらに、検索結果が本当に求めている情報なのかの判断も難しい。だからこそ、視覚情報から直接情報が得られるスキームが必要だと主張した。
「動画は、あの場所へ行ってみたい・買いたいなど、見ている人へ様々な感情を呼び起こします。動画が生んだマイクロ・モーメントを熱いうちにアクションへつなげる。TIGであればそれが実現できると考えました」(小林氏)
違和感のない動きが特長の「TIGる」とは?
では、「TIG」によって生成された動画は、どのようなユーザーエクスペリエンスを生むのだろうか。
小林氏は2つのデモ動画を紹介しつつ、「動画視聴の邪魔にならないようなユーザーインタフェースにこだわった」と自信を見せた。
最初のデモは、アパレル業界での活用を対象とした内容。複数人のモデルが、ランウェイを歩き回る動画だ。
小林氏が手元のスマートフォンでモデルが着ている服をタップすると、まるいアイコンが表示された。この一連の動作を、パロニムでは「TIGる」と名付けている。
さらにアイコンに触れたまま、指を右にスライドさせると、ストックエリアと呼ばれる右カラムにアイコンが納められていく。この動作は、アイコンの長押しでも可能とのことだ。
この間も動画は再生中だが、ストックエリアのアイコンをタップすると止まり、各対象物の情報ページへとリンクする。そして再び画面に戻ると、再生は再開される。以上がTIG動画で行えるアクションとなっている。
ビジュアルでどの対象物に触れられるかが一目でわかり、動画に溶け込んでいるため違和感がない。
「再生と停止の流れをスムーズに行えるUIにしたことで、ストーリーの流れを止めることなく動画に触れるという動作を実現しました。触れる人が気持ちよく体験、操作できるユーザーエクスペリエンス(UX)を重視し、開発しています」(小林氏)
また、あらかじめ触れる対象物にタグを表示しておくことも可能だ。そのサンプルとして紹介されたインテリア業界を想定したデモ動画では、対象物が動画内のどこへ移動しても、タグが追従していく様子が紹介された。
注目すべき、その技術力
続けて、小林氏はTIGの技術面について説明した。
「現在は動画内の物体に対してのタグ付け作業は作業者が編集ツールを使って作業を行っています。また今後、動画内の動き続ける対象物を指定するだけでメタ情報を付与し、対象物がどんなに移動してもシステムが自動的に追従し、正しいメタ情報を表示させるように開発を進めています」(小林氏)
技術紹介を兼ねたデモ動画では、TIG化された遠くに走る車が手前へ近づき、見た目が大きくなったとしても追従が外れないことを示した。さらに、大きく曲がる・Uターンして停車するという動きの変化も追いかけていく。
またTIGは対象物の奥行きも把握し、別々の物として扱える。たとえば白いシャツの上にジャケットを羽織っている人物がいた場合、シャツとジャケットに情報を付与することができる。
さらにTIGの特長として、0.1秒ごとにデータ収集と分析を行っている点が挙げられる。主に収集しているデータは以下の4つだ。
・ユニーク再生回数
・TIGが設定されている部分へのタップ数
・ストックエリアへのストック回数
・指定URLへの表示回数
さらに、画面に触れている行動すべてのデータを取得し分析することができるという。
「たとえば、動画のどの部分をタッチしているかをヒートマップで再生することも可能です。タッチが多い部分は赤く表示され、ユーザーの指の動きが直感的にわかります」(小林氏)
主要SNS上での再生、タッチも可能
ここまでTIGの概要、そして技術が紹介された。小林氏はTIGの実際の活用方法についてプレゼンを進めた。パロニムでは、2つのTIGサービスモデルを用意して、導入企業の幅広い活用を可能にしている。
1つ目のプラットフォーム利用モデルは、パロニムの持つTIGサーバーを利用するタイプの導入モデル。専用のCMSから、TIG化したい動画とタッチしたときに表示されるサムネイルやリンク先などの設定を行い、TIGの編集システムに登録。すると中1日ほどでTIG配信サーバーにTIG化された動画がアップされ、公開URLが発行される。
TIG動画は専用のサービスアプリだけでなく、Twitter、Facebook、LINEといった主要SNS内での再生およびタッチができる。Instagramも広告フィード内であれば同様に配信が可能だ。さらに、PCなどタッチパネルの機能がないデバイスでも、ポインターの操作で「TIGる」が体験できる。
2つ目のライセンスモデルは、利用企業のシステムにTIGの技術を提供するものだ。サーバーからエディターツール、SDK、他メディアのプラグインツールまで用意し、「あらゆるシステムに対応できるよう開発を続けている」と小林氏は話した。
URLへの遷移が30%越え、驚愕のCTR
では、実際にはどのような企業が利用し、どの程度の効果を上げているのだろうか。
2017年にパロニムは、放送会社と上海に合弁会社を設立。TIGの実証実験第1弾として、中国向けのグルメ動画『平成屋』を配信。公式WeChat上で、TIG動画を展開した。
さらに直近では、Jリーグのサッカーチーム・湘南ベルマーレの今シーズン開幕動画にもTIGが採用された。動画を通して、選手情報やチケットの購入ページへの遷移を促すテストを行った。
これらの事例におけるTIGの行動データを見てみよう。グルメ動画の尺は5分03秒、そのうちTIG数は20個でユニーク再生回数は7,039回。TIG領域のタップは3,751回となり、ストック数は3,449個。URLへの遷移は2,500回となった。
一方、ベルマーレの動画は、1分29秒の長さに対してTIG数が30個。ユニーク再生回数は1,861回。TIG領域タップ数は14,017回と高い数値を出しており、ストック数は3,220個。URLへの遷移は676回となった。
ユニーク再生回数に対するURL遷移のアクション率は、それぞれ35%以上とバナーや動画の一般的なCTRよりも明らかに高い数字だ。
「ベルマーレの動画は、選手1人ひとりを紹介するというカット割りの多い構成でしたが、ヒートマップを確認すると、ユーザーは細かくタッチしてくれていることがわかりました」(小林氏)
動画は見るものから、生活に役立てるものへ
「5年後、10年後の世界では、動画を見て、その後に検索するという行動はなくなっているかもしれません」(小林氏)
そのような未来予想図を描き、小林氏はTIGが新しい有力な動画フォーマットになる可能性の高さを示唆した。タッチした瞬間に商品がカートに入り、決済、購入ができるというコマースの仕組みや、サイネージやアドネットワークでTIG動画を活用も予定しているという。また、合弁会社による中国市場の展開も引き続き推進する。
3月20日、正式にサービスインした「TIG」。開始から日は浅いが、既にアウトドアブランド「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」の新商品プロモーション動画に導入されている。
最後に小林氏は次のように今後の展望を語り、セッションを締めくくった。
「近い将来、動画は見るだけだったものから生活に役立つものになる可能性を秘めています。直感的なTIGであれば、操作が苦手な方でも簡単に購入できるコマース、電子教科書など教育領域での利用も期待できます。
また言語を必要としないため、グローバルを対象とした施策にも活用可能です。ぜひTIGの可能性を多くのパートナーと拡大し、新しい動画の世界を作っていきたいです」(小林氏)