KPI達成と本質的な価値提供は両立可能か?
MVVCに即して、組織全体にユーザーフォーカスという価値が浸透しているので「全員マーケター」といもいうべき組織文化が醸成されていると河野氏は語る。
ユーザーフォーカスなマーケティング発想が根付いていると、社内コミュニケーションはどのように変わるだろうか。たとえば、マーケターがエンジニアに「CVRを上げたいからこれを実装して」と依頼していたことが「ユーザーのこのペイン(悩み)を解消したいから、これを実装して」と言えるようになる、と河野氏は明かす。
マーケターとして数値に責任を持つことを重んじる読者には、きれいごとを言っているだけに思われるかもしれない。これに対して河野氏は、「それはマーケターが一人しかいないから」という。そして、「マーケティング部門以外の社員も含めた全員が、顧客に対する価値提供を意識できると、KPIとMVVの両立も実現可能」とマーケティングが社内から孤立せず、他のチームと連携することの重要性を訴えた。
誰であれ、ユーザーへの本質的な価値提供を実現しつつ、目標の数字を達成したいが、「一人マーケター」の場合、心理的に数字を優先したくなる。
ところが、チーム全体でユーザーのペインを解決する文化が醸成されていれば、マーケターが大雑把な実装依頼をしても、エンジニアから「この実装は誰のためのものか」「どんなユーザーペインを改善するのか」という指摘を受けて、誤りに気づくことができる。「全員マーケター」文化は、互いに支え合うことで実現できるのではないかというのが河野氏の主張だ。
ちなみに、マネーフォワードでは、一般的な企業ではマーケティング部門が担うことが多い施策を、プロダクトチームはもちろんのこと、カスタマーサービス部門までもが独自に実施するのだという。
たとえば、ログイン後のチュートリアルの開発、SQLを使った顧客データ分析、WordPressを用いたコンテンツ制作などだ。マーケティング部門が多忙で着手できていない施策を、顧客と向き合う立場のメンバーが率先して推進し支え合うことができているそうだ。
個別プロダクト施策を超えて
ユーザーフォーカスという価値が社内に浸透し、組織全体でその価値を共有する文化も生まれた。今後のマネーフォワードはどのように変化していくのか。
MVVCは何度かの変遷を経て、今では社内で浸透している。だが、「今後の会社の成長やユーザーとの向き合い方の深化拡大にあわせて変化していく可能性もあります」と、河野氏は示唆する。つまり、マネーフォワードは常にMVVCと向き合い、会社全体でより良いビジネスのあり方を模索し続ける姿勢を大切にしているということなのだろう。
現在の河野氏の問題意識は、「MFクラウドシリーズ」全体における認知については伸びしろがあるということだ。
MFクラウドシリーズは多様なサービスラインアップをそろえ「MFクラウドバリューパック」として、サービス間のシナジーを設計している一方、いまだに「MFクラウド=会計・確定申告のためのサービス」として認知されてしまっているケースが少なくないという。そのため、事実、「MFクラウド経費」「MFのクラウド給与」といったプロダクトがすでにあるにもかかわらず、既存顧客から「給与計算や経費精算のサービスはないのか」という問い合わせが来てしまうこともある。
そこでマネーフォワードは、MFクラウドシリーズ全体の認知度を高めるため、プロダクトのページを一つに集約したページにリニューアルした。河野氏は、「MFクラウドシリーズ全体としての訴求には今まで十分な施策を行うことができていなかった」と話す。
新しいサイト構成は、MFクラウドシリーズが持つサービス全体をワンパッケージとして活用した際に、顧客に提供できる価値を意識して設計している。こうした中で、従来の各プロダクトに最適化してきた「全員マーケター」としての進め方が、MFクラウドシリーズ全体という広範なスコープにおいても貫徹できるかが問われている。このチャレンジにどのように向き合っていくのか、河野氏を中心とした、マネーフォワードBtoBマーケティングチームの手腕が注目される。