コントロールできないから挑戦しがいのある時代に
――そうですね。どう受け止められるかは、もはや生活者に委ねるべきだという論調もあります。
私もそう感じるときもあります。SNSや、オウンドメディアが充実したことで、たしかにブランドが言いたいことを言える場は増えています。でも、自画自賛の主張ばかり書かれたオウンドメディアは正直おもしろくないですよね。一方的な発信より、戦略PR的な発想が有効になってくると思います。
同時に、ネットの浸透によってマス広告の意味合いも変わっています。今でもやはり、一斉認知にはテレビCMが強いですが、この時代ではテレビCMで見て気になった人が次にとる行動は必ず「検索」です。ブランドとしては、そこでオウンドメディアの発信に注目してもらいたいところですが、実際にはユーザーが参考にするのは第三者の評判、SNSなどです。SNSでも、リアルな友人の話は特に有力ですね。
すると、それを前提にした情報設計が求められるので、企業は新たに知恵を絞る必要に迫られますし、マーケティング・コミュニケーションに携わってきた身としてはおもしろい時代になったとも感じます。若年層にしても、「否定されることを嫌い、共感が大事」という特徴は、「人と違うことを好む」我々の世代とは正反対です。この根本から考え直さないとコミュニケーションを組み立てられませんね。前提から変えて、新しいことに挑戦する姿勢が求められています。

広告は世の中を進歩させるそこに信頼性は不可欠
――なるほど。この時代ならではの課題はあれど、それを含めて「おもしろい時代だ」と捉えられるかが、時代を味方につける上で大事なところかもしれませんね。その観点から、企業が変えていくべき部分、また守っていく部分について、お考えをうかがえますか?
変えていく、改めるべき部分としては、まず今一度現在のメディアについて習熟しないといけないと思います。特に今は、在京テレビ局がTVerのようなアプリを活用しながら個人IDを持とうとしていたり、結線データを活用して、視聴者を囲い込もうとするなど、また、ラジオにプログラマティック広告を導入すると発表されたりと、変化のスピードも速いです。
長年言われていた、マスメディアとデジタルの融合がようやく実現しつつあるので、そうすると改めてマス広告が力を持つようにもなるかもしれません。広告の信頼性を考える上では、我々が広告プロダクトやメディアの開発に協力することもあると思います。
ネットメディアもこれから、新聞やテレビが行ってきたような出稿企業の選別や広告の考査、自社のメディアの文脈に合わないなら断るという姿勢が求められるのではないでしょうか。我々もそうした矜持を持つメディアに出稿することで、お互いの価値が向上し、広告として良質な情報を届けられる。本来、まだ生活者に届いていない情報を伝える広告は、世の中を進歩させるものであるはずです。メディアと両輪で信頼性の向上に努めることは、広告の意義を改めて強めることにもなるでしょう。
一方、守っていく部分は、こうした時代だからこそ一層ブランドの芯を大事にするべきだと考えています。生活者に委ねるという話も挙がりましたが、たしかに以前よりユーザーがブランドに関与する余地は大きくなっているので、それだけに芯が揺らぐとブランドはあっという間に変容していくという事態も起きています。SNSの力は強大ですが、ネガティブな意見に踊らされ過ぎるとブランドは崩れます。数の多さより、たった1件の批判でもブランドにとってプラスになるなら対応する、そうした見極めも大事です。
目標とするブランドイメージを常に点検し、意図せずそのイメージが違ってきたらチューニングするコミュニケーションを設計し、実施して検証する。その繰り返しで、時代を経ても残り続けるブランドを確立することが一層重要になっていくと思います。