実践1:製品活用の3ステップ
具体的な仕事の流れについて、順を追って説明していきます。
カスタマーサクセス担当者1人が受け持つ企業の数は、契約金額により1人で数社から数千社を担当しています。ですが、常時張り付いているわけではありません。導入後の初期(オンボーディング)と更新前が重要で、製品をきちんと使って効果が出ているのかを見ます。使われていない場合は問題がどこにあるのかを分析して、問題に応じてシステム的なアドバイスをするのが、セールスフォース・ドットコムにおけるカスタマーサクセスの役割です。
Salesforce活用の流れとしては、最初に最終的に達成したいゴールを決め、評価指標を決めます(ステップ1)。次は、それを定着化させます(ステップ2)。定着化させてデータがたまると「見える化」が実現できますので、最後のステップはたまったデータを活用して業務改善につなげていく(ステップ3)という3段階で進めます(図表1)。

ステップ1:設計
ステップ1では、お客様に自社の課題とゴールを明確にしてもらいます。たとえば売上を伸ばすと決めた時に、新規受注で伸ばすのか、既存の顧客のアップセルを重視するのか、国内顧客なのか海外顧客なのかなど、どうやって実現させようとしているのかを具体的にします。やるべき戦略が決まれば、それをどうやって図るのかを決めることができます。
ステップ2:定着化
次にステップ2に入りますが、実際に導入となった時、経営層の賛同と運用体制なしには不可能です。ここをクリアして初めて、製品を使ってもらうための定着化があります。人は誰しも変化を嫌うもので、これまでのやり方を変えてもらうことは簡単ではありません。我々の製品を使えば効果がある、便利になったということを実感してもらうのが最善の方法(図表2)だと我々は考えます。

トップダウンでシステムを使うように指示した場合(「強制力を生かした活用曲線」)、最初の活用度は高くても、その後低くなります。使用に対して報奨金を与えるようなやり方(「報奨やインセンティブを生かした活用曲線」)だと、一時的に活用率は上がっても継続しません。最終的には、利用者の利便性実現により活用を進めるべきですが時間がかかります。そこで、トップからのメッセージを出してもらうなど3つのアプローチを組み合わせるのが効果的で、お客様の規模や文化に合わせてカスタマーサクセスは最適なタイミングでサポートをします。
ステップ3:業務改善
そして、効果の実感、さらに業務改善という3番目のステップがあります。お客様によっては1年で3ステップが完了するところもあれば、規模が大きなお客様になると第2ステップの定着化を数年がかりで進めるところもあります。お客様の多くは年間契約ですが、1年で何をするかよりも、お客様に合わせて設定したロードマップに沿って作業を進めます。
実践2:利用状況を数値化する
カスタマーサクセス担当者は、利用状況を見ながらこれらの作業を進めます。各顧客の利用状況を数値化するにあたって「Early Warning System」というツールを利用しています。
ログイン、データ変更、ライセンス有効化、レコード数、「Chatter」(SalesforceのSNS)の利用、レポートの参照、プラットフォーム利用など、システムログとして記録されているものを集計してスコアリングしたもので、我々はお客様のデータの中身は見ません。見るのは、統計的な利用状況スコアで、使い始めたときからどのぐらい上がっているかを定点観測します。当然ながら、スコアが低いお客様はしっかりフォローする必要があります。
このように、カスタマーサクセスは活用のためのノウハウを伝えますが、我々がノウハウを伝えた人はその後、社内に広げる必要があります。ここについても、主体はお客様にあり、我々は事例やノウハウを紹介しながらサポートします。たとえば会議のやり方を変えましょう、Excelとの二重入力をやめましょう、コミュニケーションツールはChatterを使いましょう、などと伝えます。入力する時間がないということであれば、朝礼の時間の10分を入力に充てるなどの方法がたくさんあります。実行したが上手くいかないということであれば、現場の人を呼んでヒアリングをすることもあります。
実践3:ユーザー会で効率よくノウハウを共有
顧客数が多いので、自社の「Marketing Cloud」やユーザー会も活用しています。特にユーザー会は、お客様同士が直接話すことで、お客様が知りたいノウハウや経験を効率よく得られると思って始めました。顧客により有用な情報は異なりますが、我々が間に入るとボトルネックになり、伝わらないことがあることに気がついたからです。イメージは、全員にカスタマーサクセスマネージャーになってもらうというものです(図表3)。

このように、ユーザー会を立ち上げたのはマーケティングが目的というより、顧客同士で課題解決する場を設けるというのが最初の目的でした。どうやったら使ってもらえるのかに悩む人は社内では孤独を感じていることが多いのですが、同じ立場の人や同じ悩みを抱えている人が集まることで、ヒントが得られます。業務や企業の規模に関係なく共通の話ができるし、異業種の人の話が参考になるという話もよく聞きます。