音楽でブランドをデザインする「音楽マーケティング」
今回取材した高野氏がレーベルヘッドを務める「Modern Age/モダンエイジ(以下、Modern Age)」は、トライバルメディアハウスの中にある、マーケティングレーベル。音楽と音でブランドをデザインする「音楽マーケティング」を事業のひとつとして展開している。
Modern Ageの事業軸は大きく2つ。ひとつは「for BRANDS」として、企業のマーケティング課題を「音楽やエンターテインメント」を通して解決すること。もう一つは「for ENTERTAINMENT」として、音楽、テレビ、映画などのエンターテインメント業界の課題を「マーケティング」を通して解決することだ。
音楽を使った企業プロモーションはこれまで、アーティストの曲をテレビCMに使うというような、マス施策が中心だった。そうしたなか高野氏は、「これだけマーケティング手法が多様化しているわけだから、『企業×音楽』の掛け合わせにも、音や音声も含めてまだまだ他の方法があるはず」という考えのもと、事業を展開している。
たとえば2017年には、立命館大学がブランディングを目的に、ロックバンド「感覚ピエロ」とのコラボレーションを実現。内容としては、感覚ピエロが受験生への応援歌を描き下ろし、そのミュージックビデオ(以下、MV)を立命館大学で撮影。センター試験の前日に、Twitterのプロモトレンド上で初公開したというものだ。このプロモトレンドで楽曲をフル尺解禁というのは初めての試みだった。
実際のミュージックビデオ
「立命館大学のブランドスローガンである『Beyond Borders』を体現すること、そのビジョンから紐解いて立命館大学を受ける受けないに関係なく受験生に向けたブランディングを行いたいということだったので、施策の2年目として応援歌を制作することにしました。その際、立命館大学のターゲットと、アーティストのターゲットがマッチすることが重要でした。
立命館大学出身のアーティストには、倉木麻衣さんやくるりの岸田繁さんなど著名な方がたくさんいます。しかし、重要なのは知名度ではなく、ターゲットと文脈です。若者向けのマーケティングの際に必要な5つの心スイッチ『応援:勇気もらった!がんばる!』『代弁:言いたいことを言ってくれた!』『狂喜:待ってました!』『驚愕:すげー!』『共犯:やっちゃう?やろうよ!』を内包している必要がありました。(今回は応援)そこで、立命館大学出身でもある『感覚ピエロ』とタッグを組むことにしました。『等身大アンバランス』と題された楽曲は24時間で数百万回再生され、口コミでも『立命館大学すごいことするな』『等身大アンバランスの歌詞に勇気をもらえた』など、センター試験を前日に控える学生たちに『Beyond Borders』を音楽に変換して届けることができたかなと思います。これまで、音楽は主にキャンペーン手法として使われてきました。でも実は、『ブランディング手法』としても、非常に有効なのです」(高野氏)
音楽がもつ5つの強み
なぜ音楽はブランディング手法に有効なのか。高野氏はその理由として、音楽のもつ5つの強みを挙げた。
【音楽のもつ5つの強み】
1.想起させる力
2.感情を動かす力
3.行動をデザインする力
4.長期記憶に残る力
5.コミュニティをまとめる力
「昔の曲を聴いたときに、当時のことを思い出すことはありませんか? 『あの時、あの人と一緒にいたな』『あの場所にいたな』『あんな匂いがしたな』というように。音楽を聴くだけで、自分の記憶、その時の背景まで想起できるというのは、音楽のもつ一つの強みです。また、音楽や音には『感情を動かす力』もあります。たとえば緊急地震速報の音を聞くと、ただの音なのに私達は『恐怖』を覚えます。私達はその音が緊急地震速報を示しているものだとわかるし、それによって感情が動く。音が感情を左右させるのです。そして、音・音楽は感情だけでなく、行動までも変えてしまいます」(高野氏)