※本記事は、2018年11月25日刊行の定期誌『MarkeZine』35号に掲載したものです。
三菱UFJ信託銀行が始めた「情報銀行」サービスとは?
三菱UFJ信託銀行株式会社 経営企画部 FinTech推進室 調査役補
齊藤達哉(さいとう・たつや)氏
2010年4月入社。不動産、法人融資営業等を経て、2016年12月、経営企画部内にFinTech推進室を設立し、一人目の専任担当者として従事。「DPRIME」をはじめ、様々な新規事業を企画し、プロジェクトリーダーを務める。
――まずは今回発表した、個人が自身のパーソナルデータを自分の意思で企業と取引する新サービス「DPRIME(仮称)」について教えてください。
デジタル資産を対象とした信託事業の1つです。信託銀行はこれまで、金銭や債券、不動産等の伝統的資産を対象に「価値の保存・移転」「付加価値創出」を担ってきました。政府が提唱する「Society5.0」で増大が見込まれるデジタル資産においても、こうした機能が社会インフラとしての信託に求められると考えます。デジタル資産、つまりデジタルフォーマットの資産ですが、これには様々なものが含まれます。今回発表したようなパーソナルデータの他、一般的にはトークンやデジタルコンテンツ等も含まれるでしょう。
今回のサービスは、我々が提供するスマホアプリを通じて、お客様のパーソナルデータを集約してお預かりし、お客様の意思に従って継続運用するサービスを想定しています。たとえばお客様に対し「A社が、こういう目的で、こういうサービスや対価を提供するので、こういうデータを開示して欲しい」というオファーを提示し、お客様に最適化したサービスや金銭的な対価を還元します。言い換えると、“個人情報の切り売り”ではなく、お客様とデータを活用したい企業との長期的な関係構築を支える仕組みです。
――収益モデルとしては、パーソナルデータの活用や、データを利用する企業からの手数料になるのでしょうか。
はい、そのとおりです。プラットフォーム型ビジネスですので、採算をとるには、データを提供する個人の方と、それを利用する企業の数がある程度必要になります。
なお、このサービスは個人の方に無償で提供します。アプリ利用料もかかりません。データの集約先として当社のサーバを選んでいただければ、何らかの金銭的なリターンや、自分に最適なサービスなど、メリットのみ享受できる形です。
一方、データを利用する企業側のメリットとしては、今までリーチできなかった個人の方にリーチできるだけでなく、より円滑で長期に亘る関係構築が可能になります。実際に企業の方とお話ししていると、「積極的な了承なしに個人のデータセットをビジネス利用することに後ろめたさがある」という意見が聞かれますが、DPRIMEのスキームであれば、個人の方が明確な意思を持って自分のデータを開示してくれるので、数段使いやすいものになるという期待があるようです。このような価値を踏まえ、データを利用する企業から我々信託銀行に対し、一部手数料をいただくイメージになります。
――取り扱うパーソナルデータは、具体的にどのようなものを想定しているのですか。
最初のステップでは、バイタルデータや行動データなどのIoT分野と、マネーフォワードに代表されるPFM(Personal Financial Management)サービスで既に実現されている資産情報を想定しています。実は個人の行動履歴や位置情報の過去ログは、企業側からすると、その人を理解するために大変有用なデータなのです。これまでの調査により、リアルタイムで位置情報を提供するのは心理的に抵抗がある一方「昨日何をしていたか」というデータについては、提供のハードルは低いことがわかっています。こうした行動データに加え、検診履歴などのバイタルデータ、そして当社以外を含む銀行口座や証券口座などの資産情報などの動きを集約していく構えです。
将来的には、SNSのアカウントやWebの閲覧履歴、購入履歴などのデータも集約していきたいと考えています。