データを渡したら、どんなリターンがあるのか
――パーソナルデータの受け手側である企業については、どのような活用を想定しているのでしょうか。また、このサービスにおけるパーソナルデータの価格付けはどうなっているのかを教えてください。
それぞれ、ユースケースごとに異なると考えています。今、様々な企業の方と共同で「データを活用したユースケースにより、毎月どれだけの金銭的な貢献が見込まれるか」「その貢献度に対し、個人に還元する対価はどれくらいが適切か」ということを考え、具体的な活用目的とオファーを設計しているところです。
イメージとしては、アプリの中で企業からの「オファー一覧」を表示し、どの企業がどの目的でどんなデータを欲しているか、その対価として提供する金銭やサービスをユーザーに提示します。
今はまだ、こうした情報流通の創成期のため、各企業の担当者の方と我々との膝詰によるワークショップ等を通じて、ユースケースやリターン内容、および対価の水準を決めていますが、今後市場が成長するにつれ、「こうしたオファーに対してこれくらいの価格」と収れんしてくるでしょう。すべてを金銭対価とせず、サービスと組み合わせて最適なオファーを設計していきたいと考えています。
――具体的なユースケースとしては、どんなものを想定していますか。
ひとつ例を挙げると、「フィットネス企業に対して行動履歴を開示する」というものがあります。そのリターンとして、金銭に加えて「来店時に、一週間の行動に合わせたトレーニングアドバイスをトレーナーが行います」とオファーをする。このオファーを承諾したユーザーは、データを提供し続ける限り、ずっとこうしたリターンを受け取ることができます。もし「自分が提供するデータとリターンが見合わない」と感じたら、ユーザー側で配信を停止すれば終わり。こういう利用イメージやユースケースを考えています。
パーソナルデータの流通を促進するために必要なこと
――2018年8月から実証実験をスタートしたそうですが、企業からの引き合いはいかがでしょう。

問い合わせはかなり多くいただきました。参加の可否は別にして、なんらかのリアクションがあった企業の数は100社を超えています。業種は本当に多種多様で、フィットネス業界や保険業界の他、不動産や百貨店などの小売り分野が比較的多かったですね。
実はプレスリリースを出した当初は、賛否両論あると覚悟していました。日本で「個人情報」というと、一般にはどうしても「流出」や「漏えい」といったネガティブな側面を想像しがちです。一方「パーソナルデータ」というと、活用や流通というイメージがあります。それを信託銀行が行うことに、好意的な意見が寄せられたようです。
――実証実験で見えてきた課題を教えてください。
ユースケースの策定が最大の課題です。というのは、現状では産業界にデータサイエンティストなどの専門家が少ないので、単にデータを渡しただけでは、どういう活用の仕方があるか、どの程度のビジネスインパクトを生み出せるかが見えないのです。「パーソナルデータを渡すので、あとはそちらでどうぞ」では、絶対にうまくいきません。そのため、当社内部でデータサイエンティストのようなデータの専門家の養成を進めるとともに、企業と一緒になってユースケースを具現化していくデザイナーのチームを作っていくことを一番の課題にしています。
――最後におうかがいしますが、今の日本社会において、「パーソナルデータのオーナーである」という意識を持っている方はまだ少ないと思います。そういう一般個人の方に、自分自身のデータを管理する重要性や、その理解度を高めていく啓蒙活動が重要になると思いますが、これについてはいかがですか。
2つのアプローチがあると思います。1つは、数年前より国家戦略として「個人を起点としたデータ流通の枠組みを作る」というミッションが掲げられており、関係当局主導でワーキンググループが作られていますが、このDPRIMEの取り組みについても情報をオープンにしています。このような枠組み等を通じて、国と一緒になって啓蒙活動を進めていく方向性が、第一に考えられます。
もう1つは、DPRIMEのユーザーの声を拡散していくこと。そのためには、データを提供することによるメリットを実感してもらうことが重要です。金銭的対価だけでなく、企業とより円滑なコミュニケーションが実現できる便利さなども併せて訴求していきます。現状のデータ流通形態により個人と企業間で生じている“負の解消”と捉えるよりも、新しいデータ流通によるプラスの面を明示的に伝えること、そして本当にそのプラス面を実現する枠組みを作ることが、我々のやるべきことだと考えています。