クリエイティブは“温室”でいい
――三位一体の強みを、どう活かしていますか?
山岡:私たちの部ではお買いものパンダ以外にも、楽天スーパーポイントなど様々なアセットの価値向上に取り組んでいますが、たとえばお買いものパンダの場合でお話しすると、大きくキャラクター育成、ファン醸成、ビジネス活用の3つの事業観点があり、相互に密接に絡み合っています。
順番に、エクスペリエンス職、マーケティング職、ビジネス職が得意とする領域ですが、三位一体で議論することで総合的な見方ができ、企画の偏りが解消され、キャラクター価値にもファンロイヤリティにもマネタイズにも効くような高品質な企画へ進化します。コミュニケーション量も圧倒的に多いので、実現までのスピード感も速いですね。

――なるほど。数年でお買いものパンダがNo.1になった理由が垣間見られた気がします。ただ、数字を追うほどクリエイティブジャンプが難しくなる側面もあるのかなと感じます。そうしたバランスはどうお考えですか?
山岡:その点は、私も大事だと思っています。お買いものパンダでいえば、私は総合プロデューサーの立場なので数字もキャラクターの価値も全部考えますが、デザイナーには数字の話はしませんね。個別の数字を気にし始めると、やはりクリエイティビティに影響するのではないかと思います。
また、15年も前から佐藤可士和さんに楽天全体のCCD(チーフクリエイティブディレクター)になっていただいていますが、可士和さんを交えてクリエイティブを考え抜き、インスピレーションを得る時間も定期的に持つようにしています。
楽天はKPIをしっかり立てて数字を追っていくのが特徴的ですが、重要なのは良い結果が出ることです。クリエイティブ領域は数字を突きつけられないある種の“温室”でいいと思いますし、それが今の結果につながっている手応えもあります。
楽天エコシステムの特徴をさらに伝えていく
――マーケティング職も、数字を追う一方で人々を楽しませる感性が必要ですよね。どう育成しているのですか?
山岡:おもしろそう、いけるはず、という主観や感性が発端でもいいし、それも大事ですが、楽天がやる以上は「社会を動かす規模でないと意味がない」と考えています。なので、規模は意識してもらうようにしていますね。「人の生活がどう変わるか?」を問うようにしています。
規模という点にも三位一体の働き方は役立っていて、早くからビジネス職と話すことで、思い込みか、それとも世の中に大きなインパクトを与えうるかのフィードバックを得られます。日々壁打ちをしているような感じで、学びが早い環境だと思います。
ただ、視点がまったく違うだけに、最初から三位一体の座組みが奏功したわけではなかったです。少しずつ歩み寄って、うまくいき始めるのに1年くらいかかりましたね。
2016年に楽天スーパーポイントのCMとしてお買いものパンダが初めてテレビに登場しましたが、3Dの動きや声などのクリエイティブにこだわった一方、CMソングの歌詞の一つひとつはビジネス職が分析に基づいて設計していたりして、結果的に高いCM好感度はもちろん、ビジネス成果も得られました。これが好例になりました。

また個人のキャリアについても、たとえばロジカル思考に長けた、戦略コンサルタント出身の若手にお買いものパンダのプロモーションを任せるなど、先ほどのバランス感や統合観点を養えるように考えています。
――個々のメンバーにも、ビジネス×マーケティング×エクスペリエンスのスキルが培われていくわけですね。最後に今後の課題と展望をうかがえますか?
山岡:楽天のサービス間の回遊と併用は、まだまだ何倍にも増える余地があるので、引き続き注力します。
また、皆さんご存知と思いますが、今多くのインターネット企業が自社のエコシステム確立に尽力しています。ただ実際には各社の思想はかなり違っていて、外資の複数社が効率化や省エネの世界を目指す一方、楽天には人間同士のインタラクションや感情のたかぶりを大事にし、楽しさを創り出していく思想があります。
なかなかそこがユーザーにもメディアにも伝わっていないので、楽天のエコシステムの特徴と魅力をもっと発信して、“そんな楽天が好きだから、いろいろなサービスを楽天にしよう”と思っていただきたいですね。
