総合スーパー「TRIAL」で進む、店頭情報のパーソナライズ化
店舗のデジタル化は、Amazon Goやアリババ直営のショッピングモールなど国外の事例が多いが、国内にも店舗のアクティベーションを推進する企業が存在する。
岩井氏が紹介したのは、トライアルホールディングスだ。同社が運営する総合スーパー「TRIAL(トライアル)」では、スマートレジカートなど店内メディアによる提案のパーソナライズ化を進めている。
カートにタブレットが設置されており、商品をスキャンすれば決済がほぼ完了する。購入した商品に連動してレコメンドが表示される他、店内には各コーナーにサイネージが設置されており、顧客に応じた提案も可能になってきている。
天井にはスマートカメラが設置され、顧客行動データを把握。データをもとに、商品の陳列などを最適化している。Webサイト上で行う行動解析を実店舗で実践し、「メディア型店舗」を目指す。
同社の小型店舗「TRIAL QUICK」でも先進的な仕組みが導入されている。夜間は無人運営も可能になる同店では、手にとった商品を専用アプリでスキャンすれば決済がほぼ完了。決済後にゲートにコードをかざせば退店できる。使われている技術自体は先進的だが、購買体験自体には過度なテクノロジーを感じさせる要素がまったくないようだ。
「実際に店舗で買い物をしてみたのですが、もっとテクノロジードリブンな体験になるかと思ったら想像以上に普通だったんです。日常的に同店舗を使われていると思われる高齢者の姿も見かけたのですが、特に迷うことなく使っておられました。顧客に寄り添ってデジタルを導入していることが、衝撃的でした」(岩井氏)
トライアルホールディングスは、自社で開発したシステムを他社に提供する計画も進めている。このような仕組みは、リテーラーとベンダーが共同でサービスを開発し、他リテーラーに販売するRaaS(Retail as a Service)と呼ばれる。RaaSにはマイクロソフトやインテルなども参入しており、今後の成長が見込まれる領域と言える。
購入後の「顧客行動データ」は経営資源となる
ここまで販売チャネルとして店舗を活用する事例を紹介してきたが、岩井氏は、今後は購入後のデータも重視するべきだと指摘する。顧客が商品をどのように使用しているかを把握することが顧客行動の理解を深め、そのようなデータが経営資源となる。
「たとえばAmazonがKindleで、顧客がどこまで読んでいるのかを把握できれば、顧客の嗜好性を理解でき、極論すればAmazonオリジナルの書籍を出版することも可能になります。実際、Amazonは強いPBブランドも展開しています。これらは、購買データだけでなく、レビューなどから収集できる使用データをもっているからこそです」(岩井氏)
顧客に寄り添い、彼らの望むような商品を開発できれば、顧客とのエンゲージメントはより高まっていく。
「これまで、"チャネル"は"販路"という意味合いが強かった。いまは、チャネルは単なる販路ではなく、"顧客とのすべての接点"と捉えるべきです。リテールの場合、チャネル=店舗と捉えがちですが、顧客と触れるのはそこだけではありません。あらゆる接点をチャネルと捉え、いかに顧客行動をアクティベートできるかを考えるべきだと思います」(岩井氏)