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ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

変わる男性像 「男性学」に学ぶ、マーケティング・コミュニケーションの新たな視点


ダイバーシティの表現をタブーにしないでほしい

白石:……なんだかすごく、イメージできてしまいます。

田中:こういう話をすると、いわゆる“企業戦士”を揶揄していると憤慨される方がいるんですが、それはまったく誤解です。男性がそれをするのが当たり前すぎるので誰も実際には讃えてくれませんが、まず大前提として、学校を卒業してから40年も働き続けられたことは、本当はもっと褒められるべきだと考えています。

 その上で、僕はただ、そういう現実もあることに早く気づいて、若いうちから仕事以外のことにも目を向けたほうが幸せなんじゃないか……と思っているだけで。で、男性が仕事に埋没せずに済むためには、女性がサブ的な立ち位置のままでは無理だから、賃金を含めた男女平等社会への構造的な転換が必要だ、と社会学者としては考えているのです。

 ただ、企業の経営視点で見ると「いや俺は仕事一辺倒でいいんだ、多様性なんか他人ごとなんだ」という人が多いと困りますよね。実際に企業の中も社会も多様化しているわけだから、白石さんのおっしゃるように旧来の価値観のままでコミュニケーションした結果、まったく伝わらないとか、炎上する事例も出てきていると僕も思います。

白石:そうなんです。先ほどの、本音と建前が見抜かれてしまったり、当事者意識の欠如が要因で炎上する広告は多いと思いますね。また、企業としては真摯に考えているつもりが、その表現の方法のずれによっては訴えたい相手にさえ非難される場合があります。日々大変な子育て中の母親を取り上げ「子育てが大変でも、いつかいい思い出になる」とメッセージして炎上したCMもありました。

田中:SNSで拡散する時代なので、話題になった結果、ターゲットじゃない人も見てしまって過剰に反応されることもありますよね。単純に商品を紹介するのと違って、ダイバーシティやジェンダーの問題を広告表現で扱うのは、繊細さが求められて当然だと思います。ただ、その上でも僕がこの場を借りてマーケティングに携わる方々にいちばんお伝えしたいのは、「これらの問題に触れることを避けないでほしい」ということなんです。

短期的なマーケティングと長期的な意識改革の両輪

白石:それは、同感ですね。私もリサーチャー出身なので、マーケティングで短期的な成果が求められるのはよくわかるのですが、リターンがわからない、あるいは企業イメージを損ねる可能性があるからといって企業の信念を貫く表現を避けていては、先細りするのではないかと思います。

 もちろん、ダイバーシティやジェンダーを「そういう風潮だから」と、扱うこと自体が目的になってしまってはダメで、あくまで企業がメッセージをする上でその問題に触れる必然性がある前提ですが。

田中:そうですね。炎上して取り下げられてしまった事例でも、企業の信念や考えがしっかりしているなら、このまま続けていてもよかったのにと思うケースもありました。

 僕も企業でダイバーシティ研修などを担当していて感じますが、企業ではどうしてもHow toが求められます。ですが、「どうしたら我が社の女性活躍度合いが上がるか」といった即効性を追う限り、女性役員の数や育休取得率など個人の問題になりがちで、表面的な対策しか出てきません。

白石:コミュニケーションが表面的になってしまうのも、本質をつかめていないまま即効性を求めてしまうからかもしれません。ダイバーシティは企業ブランディングでも重要な一つの要素となりつつあります。だからこそ本質を理解することが重要ですね。

田中:成果に追われると、時間軸が短くなると同時に、視野も狭くなってしまうんですよね。ですが、企業人ではなく一人の人として自分の人生に向き合うと、おのずと仕事の仕方や考え方も変わってくると思います。また、ダイバーシティの問題は社会構造の問題なので、企業には多少の余裕を「長期的な社会構造の変革」に割り当ててもらえたら、と期待します。

 世の中的な男らしさの認識も、時代とともに変わりつつあります。僕は男らしさを発揮する手段として、進学や就職などのシーンで人に勝る「達成」と、それができなかったときに“いかにルールから外れた俺がすごいか”を誇る「逸脱」があると解説しているのですが、その「達成」を何から得るのかという点も変わってきています。いい大学、いい企業に行けば幸せなのかというと、必ずしもそうではなくなってきている。世代によって偏りはありますが、そうした傾向を捉えることも、男性ユーザーへのメッセージ発信においては重要だと思います。

次ページでは、白石氏が今回のインタビューをもとに、マーケターに向けた具体的なインサイトをまとめています。こちらもぜひご一読ください。

次のページ
解説:「普通の男性像」に苦しめられる男性のインサイト

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/09/04 15:18 https://markezine.jp/article/detail/31773

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