データ活用できる組織に向けたツール・人材の開発
楽天市場編成部では、業務に当たるスタッフ全員がデータを活用し、業務を進める組織になるよう、2つの点に注力している。
1つが分析ツールの内製化だ。サブスクリプションで提供される高性能なWeb解析ツールもあるが、「楽天市場」のトラフィック量では従量課金制だと相当な金額に上ることと、社内の他データと統合して自由に分析したいというニーズから内製化を進めている。
2つ目は人材育成だ。編成部内でデータ分析を主務とする担当は数名だが、プロデューサーやディレクタークラスも要件に合わせてデータ分析ができるよう、地道な勉強会を開催し、マニュアル作りにも取り組んでいる。
部員全員が一堂に会して一律で学ぶことは難しいため、特定の社員をエバンジェリストとして育て、そのエバンジェリストを中心に勉強会を開催するという方法を採っているそうだ。そのほか、メルマガを通じてデータ分析の疑問を解決するコンテンツを社内配信するなど、積極的な情報発信により、データ活用の部内浸透を目指しているという。

ただ、データ分析といっても、分析することは手段であって、目的ではない。
「分析に関心を持つと色々なデータを見たくなるものですが、全部のデータに対してアクションを取れるわけではありません。そうではなく、アクションできるところから逆算してデータを確認し、現状を把握して戦略を立てる進め方がポイントです」と、吉原氏は説明する。
データを活用したクリエイティブ改善も実行
そんな楽天では、今後データ活用をどのように深めていこうとしているのか。
1つには、「楽天市場」のデータと分析ツールを公開し、社外でも役立ててもらえる基盤として提供するという方向性がある。2018年には楽天技術研究所と広告部門が「Rakuten AIris」というAIエージェントを開発し、「楽天市場」の購買行動データを活用して見込み顧客を絞り込むことができるソリューションを提供している。楽天自身もこのAIエージェントを活用し、見込み顧客に対してメルマガやプッシュ配信を行い、新たな顧客開拓に取り組んでいるという。
もう1つは、Webサイト全体のクリエイティブ改善だ。UX専門部隊によるリサーチ結果を活用して、文字の大きさや書体、色などのクリエイティブ改善に取り組んでいる。

なおこうしたクリエイティブ改善のノウハウは、「楽天市場」本体のコンテンツだけでなく、「楽天市場」出店店舗のコンテンツにも展開している。
「商品画像の文字情報は多めより少なめ」「スマホユーザーが多いので、セールや送料無料の案内を目立たせるより、シンプルな画像表示の方が好まれる」といった知見を店舗に広め、統一されたデザインによる心地よさがユーザーをコンバージョンへと促す効果を狙っているという。

こうした方針に対して店舗に協力してもらうためにも、「楽天市場」が全国各地で開催しているフェイス・トゥ・フェイスのタウンミーティングを開催して、商品画像ガイドラインの意図を伝えるなど、楽天として推進する施策の意図を理解してもらえるように努めているという。
データをもとに判断するという科学的な側面だけでなく、地道な勉強会開催やメルマガ配信によってデータ分析を啓蒙したり、出店者に直接会って商品画像ガイドラインを浸透させたりといった泥臭さがあるからこそ、楽天のデータドリブン文化は成果につながっているのかもしれない。