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CXがサービスデザインそのものになる時代 “クリエイティブエクスペリエンス”の可能性

均質化した表現の中ではアイデアの力が必要

――それぞれ詳しくうかがえますか?

 たとえば画像解析も、「画像を大量に学習させれば、人間が目で画像を見て頭の中で解析する一連のプロセスをAIも担えるのでは」と研究者が着想したわけですよね。そしてクラウドとディープラーニングで一気に研究が進んだ。AIは膨大なデータを分析してアウトプットすることはできますが、「何を学ばせるか」は今のところは人間が規定しているので、この発想はまだ人の能力によると思います。AIが担うタスクの枠組みの決め方にクリエイティビティが必要だと思います。

 もうひとつは、AIが開発した広告ばかりが並ぶと均質化し、広告としての効果が出にくい可能性があることです。既存の広告枠を埋めるような広告はAIが代替するかもしれませんが、それとは違う軸で、従来の枠組みにとらわれないアイデアを生み出すことがクリエイターに期待されるようになると思います。それは広告表現だけでなく、CXのデザインや設計、さらには新しいサービス体験の構築、ビジネスモデルの開発にも言えると考えています。

 もちろん、いわゆるシンギュラリティが起きたときにどうなるかはわかりませんが、数年先までは、AIの浸透に対して、こうしたクリエイティビティに対する期待が高まるのではないかと思います。

 先日Isobar Globalが発表した、各国のCMO1,000名を対象にした調査では、85%のCMOが「クリエイティビティとビッグアイデアが企業の将来的な成功にとって重要」だと回答していました。この点には、クリエイターがこれまでの領域をもっと広げて寄与し得る可能性を感じました。

――その調査、「Creative Experience:The Evolution of CX」を興味深く拝見しました。Isobar Globalが提唱したCXの進化系、「Creative Experience」の意義や浸透度合いの確認も含めて調査されていましたが、まずここでの「クリエイティブ」とは何を指しているのかうかがえますか?

 クリエイティブは様々に定義できますが、ここでは狭義の広告表現ではなく発想力、創造性といった広義のクリエイティブを指しています。顧客の期待値を超えて、顧客の琴線に触れブランディングにつながる体験を提供すること、独自性のあるアイデアで関係性を刷新したり深めたりすること、あるいはまだないビジネスを開発することなど既存の枠組みにとらわれない発想。そんな意味合いですね。

クリエイティビティでCXは進化する

――では「クリエイティブエクスペリエンス」とは?

 端的に言うと、クリエイティビティによって進化したCXを表しています。背景にあるのは、CXがデータに基づくUI/UX改善やレコメンド、各種のオファーなどテクノロジーで磨き上げられる部分から先行して進んできたことです。CXにはそれだけでなく、インサイトをつかんで心に訴えるストーリーを盛り込んでいく、クリエイティブの力で磨き上げられる部分もあるのですが、このフェーズに今差し掛かっています。

 テクノロジー的な改善は、既存の枠組みでの定量的な効果・効率を求める方向に進んでいきます。マーケティングのプラットフォームは、デジタル広告の市場同様、世界規模で展開する大手のソリューションが普及の方向にあり、マーケティングテクノロジーの標準化・民主化とでもいう流れで、結果として各社で似たようなCXになることもありえます。それゆえ自社のユニークネスを生み出すために“クリエイティビティをCXに盛り込んでいく”という方向性の追求が始まっているわけです。テクノロジーと相互補完して、ユーザーの感情を動かし、そしてブランドロイヤルティを向上させるCXを目指します。これが、クリエイティブエクスペリエンスが意味することです。

――先ほど、85%のCMOが「クリエイティビティとビッグアイデアが企業の将来的な成功にとって重要」と回答したとご紹介がありましたが、グローバルのCMOは他の項目でも、クリエイティビティを重視する傾向にあるのでしょうか?

 たとえば、今後何に投資するかという質問では「クリエイティビティ」が47%で1位、僅差で「データ分析」45%が続くので、両方を重視していく向きが強いと思います。

 また、2〜3年以内にビジネスを成功させるためにマーケティング戦略のどの要素が重要かという質問では、「創造性とアイディエーション」が48%で1位、そして「デジタルマーケティング」が47%、「コンシューマーエクスペリエンスとデザイン」が44%と続きます。これらの結果からは総じて、テクノロジーへの投資だけでは不十分で、これからはもっとクリエイティブに着目し策を講じなければいけないという考えがうかがえます。

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サービスを売る時代のCXとブランディング

――なるほど。国内の状況を考えると、現状と“クリエイティビティでCXを磨く”という発想との溝がまだあるように感じます。

 そうですね。ただ、日本にも早晩、この潮流が生まれてくると思います。近年の企業やブランドと消費者との関係性の変化を考えると、一種の必然性もあるからです。

 そもそもなぜCXという概念が重視されるようになったのかをひも解くと、新商品が次々市場に投入され大量消費されるマスマーケティングの時代は、企業が一方的に発信する情報で消費者の認知を獲得し購買の動機づけをし、またブランドが形づくられていました。ブランドが何を言うか、「what to say」がブランディングに直結していました。

 そこから次第に消費者の発信力や情報収集力が高まり、「what to say」だけではブランディングができなくなりました。同時に、企業の提供価値も製品だけではなくサービスと融合したものに変わってきて、企業が売るのはモノではなく体験だという風潮が多くの業界に広がっています。結果、体験自体がブランドイメージの形成に大きく影響してきます。そのような文脈の中で、顧客体験、CXがブランディングに直結するものになってきているのです。

――ブランド価値を高めていくのは、以前よりはるかに複雑になっているわけですね。

 そのとおりです。ここまでは、我々広告マーケティング業界の話ですね。

 一方で、ITコンサルやシステムインテグレーターの方々は、また違う文脈でCXを扱っています。デジタルテクノロジーの発展によって、消費者との接点としてのデジタルチャネルの重要性が増しているから、そこをよりよいものにしていきましょう、と。結果、CXが改善されています。

 この領域はテクノロジーがベースなので、どうしても効率化や標準化といった文脈で語られることが多いと思います。たとえばグローバルのブランドメッセージをうまくカスタマイズして瞬時にローカルに適用できたりもするわけです。顧客ごとにパーソナライズされた体験を提供するなど、より複雑なことができるようになり、またそれをマネージすることも可能になる。こうしたことが、どんどん当たり前の世の中になっています。

 これはブランドにとって非常に重要ですよね。スマートフォンで常時ネットに接続して最新オンラインのサービスを使っている、実際のエンドユーザーのほうが企業よりもむしろ進んでいる時代なので、彼らの期待値はGoogleやAmazonなどによる体験から、大きく引き上げられています。その水準に達しないと競争の土俵に上がれないので、テクノロジーへの投資は必須なわけです。

 なので、テクノロジー面での標準化が進みました。けれど、それだけではGAFAが作った枠組みの中での競争になってしまったり、頭ひとつ抜け出たり、唯一無二の存在としてユーザーに認知されたりファンになってもらったりすることが逆に難しくなっている。だから、ここへきてクリエイティビティが重要だと皆さんが考え始めているのです。

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進化系CXの実現はどの部門の管轄か

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/02/25 13:00 https://markezine.jp/article/detail/32915

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