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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

Retail AIが販促にもたらす革新 利用者も満足する技術で売上も増加へ

ID-POSデータによって売り場で商品レコメンドが可能に

――いわゆる「1対N」の、こちらが伝えたいものを決めて出していくこれまでの店頭販促とデジタル販促を比較したときに、それぞれが持つ課題はどこにあると思いますか。

 これは「現場(店舗)」にあると言えます。テクノロジーを開発しても、それを導入し、オペレーションに反映してくれる現場が作れなければ、ID-POSデータを持っているというトライアルの強みも生まれません。

 それとスーパーマーケットなどの形態の場合、店舗の店長が強く、ある程度の決定権を持っているため、マーケティングが店長の勘と経験で行われてしまうのが現状です。本部が計画したマーケティング施策も、どこまで運用されるかが見えないこともあります。

 そのため、現場にマーケティングを理解してもらった上で、それを具現化するための売り場作りを実現するデータ取得、オペレーションが必要です。

――デジタルの環境が整っている現場では、どんな視点で売り場を作っているのでしょうか。

 トライアルグループの商品部(スーパーバイザー)が軸となり、計画を持って売り場作りをしていきます。ストアマネージャーには、お客様に向き合う接客や、店舗スタッフになるべく負担がかからないようにするためにどうすべきかを考えてもらい、それぞれが自分の役割をしっかりと果たしていくことでマーケティングしやすい環境を整えています。

 加えて、メーカーとも一緒に課題解決に取り組んでいますね。小売業は「BtoC」と思われているでしょうが、「BtoB」でもあって、メーカーや卸の協力があるからこそ、店舗を構えてお客様に接点が作れています。

 そのため、BtoBの部分も強化することによって、間違いなく最終的にお客様に適切な商品が届けられるようにするのが小売業のそもそもの役割だと思っているんです。

――デジタル上の施策が進んでいくことによって、メーカーとの関わり方はどう変わっていますか。

 トライアルグループとしては、店舗で取得してきたデータをメーカーの方々にフィードバックする環境はもうできているので、メーカー側もそのデータをもとにPDCAを回していただきたいです。メーカーの皆さんには、結果が良ければ他の小売に横展開しても問題ないとお話ししています。

 私たちはこれまでも“オープンイノベーション”を推進し、自社の技術に加えて外部の企業とともに、新たな技術やサービスを開発してきました。それは、小売とメーカー、お互いものをたくさんお客様に届けたい気持ちが一緒であれば、しっかりとデータ化してお互いが納得する策を取り合えれば、結果マーケティングとして価値が生まれるとの考えがあるからこそです。

 メーカーも何かしら開発するときのデータというのは、私たちのID-POSデータのようなしっかりとしたものが取れているわけではないと思うので、それを提供することによって検証できるデータがたくさん増えて、マーケティングの価値が大きくなると思っています。

リテールに特化させたAIカメラで売れる売り場作りを

――メーカーにフィードバックするデータはどういったものなのでしょうか。

 1つ目は、既にお話ししたIDPOSデータ。2つ目は、独自に開発した「リテールAIカメラ」から取れるデータです。

 カメラはプライスカードと似た大きさのもので、新宮店に1,500台置いています。人物カウントや商品認識など小売に特化したAIを搭載していて、店の目となって棚前のお客様の購買行動の分析や、オンタイムで棚の現情報が取れるようになっていて、そこから本当に売れる売り場作りをしていきます。

 それは売れる商品を買われやすい位置に置いて在庫をたくさん減らすことかもしれないし、売れない商品を売れるように位置を変えることかもしれません。それを意思決定し評価するために、カメラから得られる棚情報を常に見て、正解を分析するようにしています。

 またカメラの画像から商品の在庫状態がわかるようになるので、欠品ロスによる機会損失も防げます。商品がなかったときのがっかり感というのは、メーカー、リテールともに信頼を失うことにもなりかねないので、これを防ぐことは大切なこと。

 仕組みとしては、画像上で色面積を理解、充足率を測るのですが、少なくなったら補充アラームを出せるようにしておけば商品がない状態は防げるはずです。

――カメラもそうですが、先ほどのカートやサイネージなど、今後リテールテックの導入が進んだときに、小売店はマーケティングにおいてどのような役割を果たすと思いますか。

 私たちが開発したものが、一気に世に浸透していくことはまずないと考えています。いくら便利なものがあっても、お客様の必然性に沿っていなければ、それは不便と同じことです。

 たとえば無人店舗もすごいシステムだと感動はしますが、アプリをわざわざダウンロードして、入店して……という行動を経て買うよりも、普通に露店で買うほうが早い場合もあり、有人店舗より不便な部分が存在します。人手不足解消には一役買うとは思いますが、そこまでテクノロジーが発達したものが必要かと言えば疑問が浮かびます。

――あまりに便利すぎると、利用者がついていけないということですね。

 たとえば、自動車の自動運転技術がレベル0〜5の6段階に区分されていますが、小売も同じだと思っています。

 最終的な未来では、店舗も無人で、配送もドローンでとなるかもしれませんが、いきなりそこに到達するのは無理な話。新しいテクノロジーは導入コストが高くて、薄利多売という小売業の現在のビジネスモデルには合わないでしょうから、段階的にレトロフィットしていく必要がある。

 そうなると、スマートショッピングカートがいきなりレジを失くすのではなく、簡易化したものであるように、少しずつデジタルを取り入れていくことによって、お客様がそれに慣れていくような買い物体験を作っていくことが大事なのだと思います。

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リテールテックが変えるマーケティングの未来予測

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:42 https://markezine.jp/article/detail/32918

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