「UXインテリジェンス」を体現できる企業が生き残る
日本では今年、個人情報保護法が改正される予定だ。就職情報サイト「リクナビ」内定辞退率問題の影響で、クッキーや識別IDなどが「個人情報」になり、ネット広告のターゲティング技術が違法になるかもしれないと、ネット広告業界では、懸念する人もいる。つまり、アドテクが違法になるのではないか? という懸念である。もちろん、そう簡単に、政府も違法にはしないだろうと高を括っている人のほうが業界には多いようだ。私自身も、「まぁ、いきなり違法はないだろう」と侮っているところもある。
だが、より本質的な問題は、違法であるかどうかではなく、レッシグがいう通り、「全体に善をもたらすためならよい、個人に害を及ぼす扱いは罰する」にはどうするか。社会にとっても個人にとってもプラスにするには、どうするのがいいのか? そのことを真剣に考えることだ。
私は、それを自らに問い、考えていた。そのとき、偶然にも、ビービット藤井保文さんから「UXインテリジェンス」というコンセプトを教えてもらった。
「UXインテリジェンス」とは、アフターデジタル時代のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を駆動するために、アーキテクチャ設計者が持つべき精神とケイパビリティ、ということらしい。ここでいう「アーキテクチャ」という単語は、ローレンス・レッシグと同じ意味合いで使っている。
四つの制約条件のうち、たとえば、あなたがアドテク企業だとしたら、「法」を自分で変更することはできないし、「社会の規範」もすぐには変えられないし、「市場」をすべてコントロールすることも困難だ。しかしながら、自社のプロダクトやサービスの設計を変更し、アーキテクチャを変えることはできるのではないか?

藤井さんは、MarkeZineの私との対談記事で、企業にとって、UX改善に取り組むことは、経営課題であるとし、「UXインテリジェンス」という精神とケイパビリティが重要であると語った。対談記事からポイントを引用する。
1.精神――以下の三段階が必要
第一段階:「データ自体は金儲けの源泉ではない」と理解しているか
第二段階:ユーザーに還元する思想があるか(不義理でないか)
第三段階:社会貢献につなげる思想があるか2.ケイパビリティ――以下の3つの能力が必要
・AIを使いこなす能力
・データサイエンスを活用し理解する能力
・ヒューマンインテリジェンスを扱う能力(人の置かれている状況を把握し、発想する能力)」
この精神とは、データから得られるメリットを、自社の利益のために使おうという卑しい精神ではなく、ユーザーにも還元すると同時に社会全体への貢献にもつなげようという崇高な意志を持つことだと思う。これは、レッシグの主張する「全体に善をもたらすためならよい、個人に害を及ぼす扱いは罰する」という原則的な考え方にマッチしている。
ケイパビリティについては、あまり説明はいらないように思うが、今の時代において、AI(人工知能)を使いこなす能力とデータサイエンスの能力は当然要求されるとして、さらに、それに追加して、ヒューマンインテリジェンスを駆使して、精神で掲げる理想を実現していく。
「レイ・カーツワイル氏は著書の中で、『2045年にはAIは人間の脳を超える』といったことを指摘していますよね。村上さんの見立てだと、どうでしょうか?」と私は、電通総研のインタビューで村上憲郎さんに質問した。彼は「無理だと思う、僕は。」と、ためらいなく返した。
その理由はインタビュー記事に書いてあるが、いずれにしろ、「シンギュラリティは近い」と言っても、それはいまだ来らず(未来)の架空の物語である。つまり、AI(Artificial Intelligence)だけでは、人間を超越した適切な判断はできない。まだまだ、Human Intelligenceが必要なのだ。
アドテクが違法になる日。新しい法に表面的に従うという同意モデルだけでは、根本的な解決にならない。データのメリットを、ユーザーに還元し、社会にも還元するという精神を実現する企業が生き残り、卓越したUXを提供し、ビジネスを成長させる。
その日、アドテク企業も「UXインテリジェンス」を語っている。ユーザーからみても好感が持てて、社会にも役に立つ広告体験を提供しよう。そんなアドテク企業が生き残る。それが私の直感だ。

 
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                    
                     
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                
                                 
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                    
                                     
                                
                                 
                                
                                 
              
            