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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

「食×デジタル」の可能性を追求 マーケティングと接客をつなぐDX推進

現場へのデジタル浸透は“入り口”が大事

――なるほど。ただ、今教えていただいたような施策は重要ではあるものの、業務効率化などと違ってROIが測りづらいかと思います。デジタルの店舗投資はどう判断されているのですか?

 投資対効果は、経営側として当然考えるべき重要なポイントです。いずれの施策も損益分岐点を見定め、数値化して判断しています。その中でも確かに今挙げた施策は、“お客様や従業員の満足度を上げると結果的に客数や売上は最大化する”といったストーリーに近い、長期の効果を見込むものですね。

 一方で、効率化やサービスの質の改善に直結する施策も走らせています。たとえばIoTのチップをスタッフのポケットに入れ、レストラン店舗内をどう歩いているかを可視化すると、忙しい時間帯にはどうしても店頭に並ぶお客様への声かけや、帰る方へのお見送りがおろそかになってしまうこともある、と客観的にわかります。客観的な情報を元にすると、ただ指導するだけよりも説得力をもって効率化やサービス向上につなげることができます。

――その両輪で進めることがポイントなのですね。

 そうですね。ただ、前者はやや時間がかかりますし、後者も結局は人の行動変化が必要になってくるので、だからこそ「なんか楽しいね」というその瞬間の感覚をしっかり作らないと、現場の関心やモチベーションが持続しないんです。これは、シンガポールで数々の企業のデジタル化を支援する中で学んだことです。

 同時に、やはり現場のスタッフには“入り口”が大事だと思っています。まず心理的な部分では、繰り返しになりますが、立ち戻るのは社是ですね。「デジタルで効率化!」ではなく、「皆さん、お客様にもっと喜ばれたいですよね」というところから入って、「どのくらい喜ばれているか知りたくないですか? そのヒントを得たくないですか?」という文脈で“心に火をつける”ことを意識して活動しています。チームにデータサイエンティストがいますが、彼女はデータ分析だけでなく、頻繁に店舗を訪問し、スタッフに寄り添って“入り口”作りもしています。

 もう1つ、物理的なハードルは、アナログをある程度残すことで解決を試みています。たとえば動画コンテンツを制作したとお話ししましたが、接客マニュアルはアナログの小冊子で残していて、そこからQRコードで動画へ簡単にアクセスできる形にしているんです。完全にデジタルだとやはり“自分には無理、自分には遠い”と思われがちなので、アナログと融合させることが、実は日本のDX推進のカギなのかもしれないと思っています。

技術ありきではなく経営の課題解決のために

――近年、伊藤さんのように外部でデジタル領域の経験を積まれた方をCDOやCMOとして招く日本企業が増えています。一方で、外部の人材だからこその難しさもあると聞きますが、経営層や現場の方、また実際に変革を牽引される方へご助言をいただけますか?

 デジタル化に課題がある企業では、おそらく技術的な知識よりマインドセットの転換が必要なのだろうと感じます。これまでの蓄積に自負があるのは当然ですが、今や老舗大手企業の根本的なビジネスモデルの転換もあり得る時代ですから、外から見る目も養って、新しいことにチャレンジするマインドを持つことが大事です。

 そのように社内を変えるには、ITの専門用語をできるだけ使わず、何のためにデジタル化するのかのストーリーテリングがやはり重要だと思います。当社では、社是とデジタル化の意義を結び付けましたし、それを伝える手段には明るくわかりやすい動画を用いて心の障壁を下げました。

 また、先ほどお話ししたアナログとデジタルの融合は、現場だけでなく役員層へも有効かもしれません。技術ありきではなく、経営の課題解決のための手段だという理解を促す必要がありますし、CDO採用の観点ではその思想を理解する方、もしくは理解するパートナー企業とタッグを組むことが大事です。その上で、現場スタッフが笑顔で楽しく取り組めるはじめの一歩を作ることを意識されるとよいと思います。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

 キーワードは、グローバルです。今さらと感じられるかもしれませんが、私が参画したこの2年間でも外国人のお客様やスタッフが急増しています。当社の海外展開も加速しています。その中で、食のグローバル化とパーソナライズ化を安全・安心な形で進められる基盤を、デジタルで整えたいと考えています。同時に、働く仲間であるスタッフにも様々な文化と背景を持つ方が増えていくので、皆が心地よく、同じ社是の精神の下に邁進できるグローバルな環境整備にも貢献していきます。

 現在、中国やタイ、ベトナム、シンガポールなどでも事業を展開していますが、今、日本で使っているアプリや動画コンテンツなどはAIの自動翻訳を使えば海外での利活用はそこまで難しくありませんし、逆に各国での好例を日本に持ち込んで活かすことも昔よりハードルが下がっています。「人に喜ばれる」事例の共有による好循環を、グローバルに広げていきたいですね。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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2020/04/24 19:23 https://markezine.jp/article/detail/33188

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