商品やサービス開発にデジタルをどう活かすか?
今回はPACフレームで最初に行う「Prediction」について説明します。ここで大事なのは、世の中で起きている現象を「点」ではなく「時系列」で捉えるということです。
習慣にはこれから実践する人が増えるか減るかの人気傾向があります。まずは、この「習慣トレンド」を捉え、これから実践する人が増えるであろう「兆し習慣」と逆に人が離れていくであろう「衰退習慣」をあぶり出します。そのとき、“今”流行っているかではなく、過去5年ほどを振り返り、マクロな視点を持って「時系列」でトレンドを見ていきながら、なるべく多くの「兆し習慣」をあぶり出します。
世の中にある様々な無料のツールを使いこなすことで、効率よく習慣トレンドを捉えることができるようになります。私たちが普段活用しているツールをまとめて紹介します。誰でも簡単に利用できるものなので、ぜひ試してみてください。
(1)ネットやテレビのニュース
多くの場合、ニュース経由の情報収集がベースとなります。特に、専門メディアや特集など、記者が取材を重ねることで世の中の潮流を捉えている記事に注目すると、効率よく情報を集められます。
気になる習慣を見つけたら、単純に今どのように語られているかだけでなく、過去の時点からのニュース件数に関する変化などを追うことで、その習慣がいつから盛り上がっているのかといった変化を確認することができます。
(2)SNS
検索機能を活用したり、特定のテーマについて投稿頻度の高いアカウントから継続的に情報を収集したりします。SNSについても、単純な投稿内容だけでなく、投稿数の変化や「いいね!」の数などを確認することで、実際にその習慣がどのくらい盛り上がっているのかを確認することができます。特にTwitterは、リツイート状況などを確認できる無料ツールもあるので分析しやすいです。
(3)レビュー
商品やサービス利用者のレビューの中から、新しい習慣が見つかるケースもあります。ECサイトの商品レビューやレビュー数の推移なども大いに参考になります。
(4)GoogleTrends
GoogleTrendsは、ある単語がGoogleの検索エンジンでどの程度検索されているかの時系列推移をグラフで見ることができるツールです。習慣を実践する人が検索しそうな単語の検索数を追うことに活用します。たとえば、下の図は「糖質オフ」という単語の検索数の推移を示したグラフです。2015年ごろから2019年にかけて、徐々に検索数が増加していることが読み取れると思います。「検索数の増加=習慣の広がり」と捉えることで、実際に習慣が成長トレンドにあるのか? いつごろから成長してきたのか? といった確認をすることができます。
習慣トレンドを捉える上で、たまに情報を集めるだけでは、なかなか中期的な変化を感じ取ることができません。継続して観察するからこそ、「線の時系列変化」である習慣トレンドを捉えることができるのです。具体的には、自社の商品やサービスと関連あるテーマを、小カテゴリー/大カテゴリー/ライフスタイルの3つの視点を意識して継続して観察していくと、習慣設計に活用できる兆し習慣が集まっていきます。
大切なのは、ジュースならジュースという小カテゴリーに限定しないことです。一見ジュースとは関係ないような健康、食生活、ファッションなど、ターゲットの周辺の習慣トレンドも継続的に集めるといいでしょう。徐々に商品との意外なつながりを感じ始めるはずです。
博報堂ヒット習慣メーカーズ 著、中川悠 編著、秀和システム、2020年4月
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また、継続して観察することは、ブームとトレンドを見極めることにも役立ちます。点ではなく線で情報を集めることで、短期的なブームとしての盛り上がりだけで下火になったのか? 中期的なトレンドとして盛り上がり続けているのか? を見極めることができるのです。たとえば、糖質オフも一度話題になった時点では、目新しいダイエット手法としてニュースに取り上げられ、短期的なブームになっただけかもしれません。実践する人が増え続け、複数メディアで取り扱われてきたからこそ、中長期的に継続する成長トレンドと言えるようになったのです。
では、具体的にはどのくらいの頻度で情報を集めるべきなのでしょうか。理想は毎日、少しずつでも情報を集めることが望ましいです。高頻度で情報を集めることで、トピックごとに普段どの程度の情報が世の中に発信されているかといった感覚が培われます。逆に言うと、普段通りではない異常な動きにいち早く気づくことができるようになります。
毎日ニュースを見ることはもちろん、SNSにも、ある領域についてのトレンド変化に敏感なアカウントがあるため、特定のアカウントを見続けることで、最新の習慣トレンドの変化に気づきやすくなります。また、変化が起きてから時間が経過していそうなトレンドについては、GoogleTrendsで過去の検索傾向をさかのぼることで、時系列変化を捉えることができます。
博報堂ヒット習慣メーカーズ 著、中川悠 編著、秀和システム、2020年4月
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顧客の「習慣化」は、社会の「幸福化」でもある
カリフォルニア大学のソニア・リュボミアスキー教授は、裕福か貧乏か、健康か病気がちかなどの「生活環境」よりも、家族と過ごす時間や身体を動かすことなどの「日々の習慣」のほうが幸福度に大きな影響を与えているという研究成果を発表しています。つまり、習慣を変えることで、幸福度を高められることが立証されているのです。それが、私たちが「習慣化」というものにこだわる、もう1つの理由です。
2019年は、日本の女性が職場でハイヒールやパンプスの着用を義務づけられていることに抗議する活動が話題を集めました。スニーカーなど好きな靴をはいて仕事をする習慣が根付けば、もっと幸せに働ける女性が増えるはずです。
クリスマスにチキンを食べる、夏はノーネクタイで通勤するなどの新しい習慣が社会に根付けば、やがて新しい文化になります。このように、新しい習慣を作り出し、文化として定着することで、社会に変革を生み出すことができると考えます。
社会の転機は習慣の転機でもあります。新型コロナウイルスという未曽有の出来事のあとには、大変なこともありますが、多くのチャンスも広がっていると思います。ぜひ、その機会を捉えて、みなさんが手掛ける商品やサービスを通じて、新しい習慣が生まれ、社会がもっと幸せになっていくことを、心から願っています。
