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定期誌『MarkeZine』特集

目の前の1人に何ができるか パーパスを指針に社会課題に向き合う

 2月27日の夕方、急遽発表された小・中・高校の一斉休校。その後順次、各自治体の幼稚園や保育園も休園の措置が取られた。ベネッセコーポレーションは3月2日の休校開始日当日から「春の総復習ドリル」の無償提供を開始し、その4日後には「しまじろうといっしょ!webちゃれんじ園」を開設(3月18日に「オンライン幼稚園」へ移行)。小・中学生向けオンライン教室「きょうの時間割」や、しまじろうとハローキティなど人気キャラがコラボした「みんなといっしょたいそう」などのコンテンツを次々と提供した。同社がこうした活動を行った背景には、どのような考えがあったのだろうか。マーケティング開発セクター長の橋本英知氏にうかがった。

電子版(誌面)はこちらから閲覧できます。

※本記事は、2020年7月25日刊行の定期誌『MarkeZine』55号に掲載したものです。

既存コンテンツを社会的な課題に合わせて再編集

株式会社ベネッセコーポレーション
マーケティング開発セクター長 橋本英知(はしもと・ひでとも)氏

ダイレクトメールを中心とした、各種メディアによるセールスプロモーションツールの企画・制作に携わる。新商品開発、新規事業開発、経営企画などを経験後、CMO補佐などに広く従事。こどもちゃれんじ事業、英語教育事業の責任者を経て、現在は、ベネッセコーポレーションの教育事業におけるマーケティング・セールスを担当。ダイレクトマーケティング、ブランド、CRM、デジタルトランスフォーメーション、人材開発領域での活動を中心に、講演・寄稿など多数。

――ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)さんは今回のコロナ禍において、様々なコンテンツの無償提供を決めました。まずは経緯についてうかがえますか。

 小・中・高の一斉休校が発表されたのが2月27日(木)の18時すぎ。その翌朝に緊急の経営会議が開かれ、各事業が何に取り組むべきかを議論しましたが、土日に突入してしまいました。既にデジタル上でコンテンツの無償公開などを打ち出している企業もあり、動き出しはシステム対応などが重い分、遅かったと思います。

 しかしその分、子どもや保護者から何が求められているのかリアルな声に耳を傾けるようにしました。たとえば「週明けから子どもたちに何をさせたら良いかわからない」「たくさんのデジタルコンテンツが公開されているけれど、自分の子どもに合うものがどれか選べない」という困りごとが見えてきたのです。さらに、インターネットやデバイスの環境が整っていないご家庭へのケアも必要だと考えました。

 ならば私たちにできるのは、保護者が迷わず手渡すことができて、子どもたちがなるべく使いやすい形で、コンテンツを届けること。そう考えて、3学期の学習内容を総復習できる「春の総復習ドリル」を、希望する家庭に無償で郵送することを決めました。各教科・各学年担当が、これまで制作した教材の中からこの時期に必要なものをピックアップして再編集する方法をとり、休校が開始された3月2日(月)から受付を開始しました。

 同時に、これまで会員向けに提供してきた児童書や絵本・歴史・生物や科学など、幅広いジャンルで常時約1,000冊がそろう電子書籍サービス「まなびライブラリー」の無償開放も決めました。こちらも限られた時間の中、共にサービスを提供していたパートナーである出版社の方や著者の皆様に、通常では考えられないスピード感でご了承いただけたことで、「春の総復習ドリル」と同時にリリースを出すことができました。

――大きな反響があったそうですね。

 「春の総復習ドリル」は当初10万部用意していたものの、『ZIP!』『スッキリ』といった朝の情報番組で取り上げていただいた結果、その日の昼すぎにはなくなってしまいました。そこですぐに30万部に増刷することに。その後も「なるべく早く手に入れたい」という問い合わせや、「小学校や学童などで使用したい」と自治体から要望があったりしたことから、並行してPDFでデジタル版の配布も始めました。

春の総復習ドリル
春の総復習ドリル

――そもそもこのような施策を行ったのはなぜでしょうか。

 私たちベネッセには「よく生きる」という企業理念があり、近年は教育事業に加え、人の成長に合わせて、事業の領域を広げています。また昨年からは社長の小林(小林仁社長)の強い想いでパーパス・ブランディングに注力してきました。

 似た言葉であるビジョンは未来のある時点における「ありたい姿」を描いたものであるのに対し、パーパスは「我々は社会にどう働きかけるべきか」「我々は何のために存在しているか」を問うもので、視点が「今」に置かれています。今回もこの考え方が行動指針になった側面は強くありますし、目の前にある困りごとをいち早く解決しなければ、という想いは組織を超えて広く共有されていたと思います。

 また、平時であれば企画の規模感や費用対効果などを当然考慮していますが、今回は「何よりもまず、困っている目の前の人に届けよう」という感覚を強くもっていました。

――今回、オンラインを有効に活用した取り組みも印象的でした。特に、時間割に沿ってリアルタイムで歌やお遊戯といったコンテンツを提供する「オンライン幼稚園」は、「子どもたちの生活リズムを整えるために役立った」と反響があったそうです。どのように生活者の悩みをすくい取ったのでしょうか。

 休校・休園の決定が出た時点で、子どもたちの生活リズムが崩れてしまうのではないかと予想はしていました。特に未就学児は、一度生活リズムが崩れるとなかなか元に戻すのが難しい。ここでも、これまで制作してきたコンテンツを中心に、普段通っている幼稚園を疑似体験できるスタイルに再編集したんです。午前10時の朝の挨拶からはじまって、歌やダンス、読み聞かせを行い、午後2時すぎまで細かく時間割を決め、子どもたちが動画を見ながらいろいろな活動を楽しめるようにカリキュラムを組みました。

オンライン幼稚園を視聴する子どもたち
オンライン幼稚園を視聴する子どもたち

――小・中学生向けのオンライン教室「きょうの時間割」についてはいかがですか。

 3月の3週目から毎週、1学年200人計2,800サンプルの保護者に大規模な定量調査を行い、ニーズの変化を定点観測していました。新型コロナウイルスによって、日々状況が変化し、困りごとやニーズが捉えきれなくなってきたため、どのような変化が起こっているかを定量的にもウォッチしようと考えたんです。その結果、小学生以上が勉強の習慣をつけるためには、そもそも生活習慣を整えることが重要だということが見えてきたため、急遽「きょうの時間割」を立ち上げました。

 この調査は重要なものと位置づけ、コストとリソースも割きました。スピードが最優先だったので高度な分析はせず、シンプルに子どもたちの意識や生活が「どう変わっているのか」にフォーカスして、追っていきました。

 毎週行ったこの調査を通じて、社員のデータへの向き合い方が大きく変わっていました。これまでは教育事業で長い経験をもっている分、どうしても過去の例から考えてしまう面もあったのですが、今回は今起きていることを最優先に、施策を考え、動く姿勢が生まれたのです。加えて毎日の報道や、コールセンター・SNSに寄せられる声なども吸い上げることで、コンテンツを改善していきました。

「オンライン幼稚園」の画面イメージ
「オンライン幼稚園」の画面イメージ
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この記事の著者

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:45 https://markezine.jp/article/detail/33846

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