抑圧された不満、その背景にあるインサイト
白石:『ランドリーボックス』には、「月経カップ」や「ナプキン不要の吸収型ショーツ」など、日本ではまだ普及していないフェムテックも多数掲載、販売されていますね。
フェムテック(FemTech):Female〔女性〕とTechnologyをかけ合わせた造語。女性の抱える問題を解決するテクノロジーのこと。
西本:そもそも生理について情報がまとまったサイトがないことが出発点になっています。人によって悩みは本当に様々ですよね。私自身も、いろんなサイトを調べたもののまとまった情報がなくて。
結果としては、発展途上国で「月経カップ」が配られていて、とても重宝されているというニュースを偶然見つけたことが解決のきっかけになりました。その「月経カップ」を取り寄せて使ってみたらとても快適だったんですね。だけど、使い方や洗い方、保管方法はまだ情報がなくて、さっぱりわからなかった。
こうした実体験から、ドラッグストアに並んでいる生理用品以外にも、いろんな商品を試せたら生理でつらい思いをしている方の助けになるんじゃないかと思うようになりました。以来、世界中のいろんなフェムテックや生理用品を試しては、使い方をレポートすることを繰り返しています。
白石:誰よりも自分ごとだったわけですね。だからこそ、深くコミットできる。
西本:ええ。それと、元々会社員時代から、性に関する情報を取り扱う『ランドリーガール』という今につながるサイトを個人で運営していたんです。先ほど白石さんもお話されたように、性的なことはタブー視されてなかなかフランクに話せないし相談できない。だけど、悩んでいる女性はたくさんいます。
白石:まだ話すことに抵抗のある人が多いですよね。
西本:伝える障壁はまだまだ高いです。ならば「生理」という現象を糸口に、生物学的女性の身体への理解を深めていけば、もっと自由に悩みを共有できる空気感が生まれるんじゃないかと思い、『ランドリーボックス』へと昇華していきました。
白石:女性にとって「生理」と付き合う日数は一生で2,470日と言われており、働く時間も含めて生活に密着したテーマであるはずなのに、日本では「お赤飯を炊きましょう」というところで止まっていますよね。
西本:お赤飯でお祝いされても……となりますよね。私自身、お赤飯よりもっとクリティカルに必要な情報を教えてほしかった。
白石:オーストラリアの「Welcome to Periods! Box」みたいなものがもっと普及したらいいですよね。シングルファーザーも増える日本において、男女問わず、自分の娘に生理が来たらどうしたらいいんだろうと悩む親にとって、ああいうものがあったら安心できますよね。
西本:サブスクリプション型の生理スターターキットですよね。生理用ナプキンやパンティライナー、ミニサイズの湯たんぽ、月経カップ、生理と生理用品について解説するブックレットなど必要だと思う商品を自分で選んで、それが自宅に届けられるというものですね。
生理について情報も得られるし、かわいい生理用品がたくさん入っていてポジティブな生理体験を得られるし、知と体験の両面から生理について理解を深められると思います。それにビジネスとしても成立しやすい。画期的な製品だと思います。

白石:コロナ禍で望まない妊娠やDVが増えたという話をよく聞くようになりました。率直な西本さんのご意見をうかがえますか?
西本:ええ。望まない妊娠については、性教育の課題が非常に大きいと思います。学校の授業では表面的な知識をサラッと習うくらいで、「自分の身体をどう守るべきか」や「どうすれば避妊できるのか」という根本的な知識のない人が、10代だけでなく大人にもたくさんいます。
白石:「身体を守る」ことについてきちんと知識を授ける場がないため、防御方法を知らない女性はたくさんいます。
西本:そこに私も課題を感じていて、性教育支援についてはN高と行った女子高生向けの「生理と向き合うワークショップ」や医師のご夫婦による性教育ユニット「アクロストン」と協働で小中学生を対象とした「子供向け生理教室」を開催しています。ただ、もっと積極的に取り組む必要性を感じています。
「子供向け生理教室」は男女共に参加OKで、色めがねがつく前に生理用品のことや女性の身体の仕組みをしってもらおうと企画したものです。小さいうちだとタンポンを見ても「ロケットみたいでおもしろい」とか、「だからお母さんは毎月お腹が痛くてつらそうな日があるんだ」という素直な感想をもってもらえました。早いうちから理解しておけば、男女ともに生理用品も買いに行けるようになりますよね。
白石:必要な取り組みですね。特に思春期の世代は買うことに抵抗感をもっている人も多いですから。
西本:ええ。また、性の課題に関しては男性の理解のなさが責められがちですが、その傾向は決して正解ではないと思っていて。生物学的女性である私たちでさえ、自分の身体のことをよくわかっていないし、話題にするのもはばかられるくらいです。まったく違う身体である男性はもっと知る機会が少ないですよね。諦めずに、継続的にお互いを知る機会を作っていくしかないと思います。