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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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定期誌『MarkeZine』特集

青虫は蝶になって羽ばたけるか?既存の構造を破壊する覚悟がDXの第一歩

それは“ごっこ”なのでは?DXにまつわる7つの幻想

 では、脱却すべきその幻想とは?

 DXに関して私が経営層から聞いてきた相談は、大きく次の7つに集約されました。順を追って説明します。

DX7大幻想
  1. PDCA幻想
  2. デジタルマーケ幻想
  3. データ&AI幻想
  4. デザインシンキング幻想
  5. PoC幻想
  6. 情シス幻想
  7. アナログ幻想

1.PDCA幻想

 まず、「PDCAを回せば成果が上がる」という幻想が、デジタル変革を阻んでいます。PDCAとは、本来はプランが大胆だからこそ、実施とチェックをしっかり行って軌道修正することで好循環を生み出せる活動です。特に日本の大企業は、これが予実管理と混ざってしまっています。リアルビジネスと離れた経営企画などの部門が予実管理をすることが多く、いかにDXにまつわる7つの幻想大胆なプランニングをするか、あるいはトップラインを抜本的に飛躍させるかというチャレンジよりも、割り振られた予算を達成すること自体が優先されがちです。このロジックでいくと、究極的には、将来のためにリソースを使わないことが最も予実達成に近い道筋にもなってしまいます。戦略的にPDCAを実行しているつもりで、やっているのは“予実PDCAごっこ”です。この実態に気づけていない環境に、いくら優秀な人材が投入されても、変革のスタートラインに立てません。

2.デジタルマーケ幻想

 デジタルマーケティング=DXだと考えている方が少なくないですが、これは大きな勘違いです。そもそもマーケティングという言葉が正しく理解されていないことが多い日本では、マーケティングとは広告宣伝で売上を立てることであり、それをデジタルで行うことはつまりSNSでバズらせることだ、という壮大な誤解が生じています。

 もちろん、デジタルマーケティングは重要な活動ですし、今後もますます大きな役割を担っていくことは間違いありません。以前はマーケティングの中の一領域として捉えられていたのが、デジタルでできることが広がり社会にも実装されていく中で、もはやデジタルのないマーケティングはありえないという認識が正しいものになりつつあります。ですが、デジタルによる企業の構造改革は、デジタルをベースにしたマーケティングとは違うのです。

3.データ&AI幻想

 ここにも大きな誤解が3つあります。まず、自社のデータをAIに放り込めば、革新的なビジネスアイデアが見出せるという、誤った期待。2つ目が、他社の競争優位になるような貴重な情報を自分達は持っていて、それを高値で販売できるんじゃないか、という下世話な商魂。3つ目は、データ活用で成果が出ないのは、AIの性能が低いからではないか、という懸念です。いずれも大幅にずれています。

 確かに、優れたデジタルサービスの裏側にはAIが活用されていることが多いのは事実です。AIによって、個々のユーザーにパーソナライズした価値の提供も可能になっており、ユーザーは高品質なサービスを受けられるから貴重な自分のデータを提供するという構図も成り立っています。ですがそういったことは本来、作りたいデジタルサービスの構想があり、そのために必要なデータセットとAIに何を分析させるかの設計があってこそ、実現に漕ぎつけるものです。構想なくして、データとAIがDXを促進する、という考えは極めて浅はかです。

4.デザインシンキング幻想

 この数年で、UI/UXという言葉がよく語られるようになりました。優れた体験を提供するプロダクトに人が集まり、データも集まり、その分析によってよりブラッシュアップできるという構造があるため、体験の設計が競争優位の源泉にもなっています。

 ユーザーに心地よく感じられる体験をどう設計するかは、人間の感覚や感情に向き合わないといけないので、確かにロジカルシンキングだけで解決できるものではありません。そうした場合に、ビジネスマインドを持つクリエイターの力を借りたデザインシンキングの手法は有効なこともあります。

 ただし、本当にその真価を発揮してビジネスに落とし込むまでには、各方面の優秀なエキスパートをもってしても一筋縄ではいかない工程をたどります。経営陣や“DX推進メンバー”がちょっと集まって、思いつきのアイデアを付箋に書いていくのは、雰囲気を味わう単なるデザインシンキングごっこです。それは企業の構造改革には1ミリも結びつきません。

5.PoC幻想

 R&D段階で可能性のあるビジネスコンセプトを見出し、まずは小規模に実装して効果を検証する活動が、PoC(Proof of Concept)です。実証実験とほぼ同義で、これ自体は一定の有効性があるものの、問題は実験段階ですぐに終わってしまう場合が多いことです。本来は、コア事業を変革するプランを下敷きに、第二、第三のフェーズへ進めてスケール化する起点になるのがPoCの意義です。

 これが進まない背景には、覚悟の有無も関係していると思います。もし、PoCでコアビジネスを大きく刷新するアイデアに確信が持てたり、大幅なコスト削減が実現できることが見えたりしたら、そのスケール化はつまりコア事業の破壊や否定になりうるからです。それを受け止める覚悟がなければ、PoCもただDX風な活動を装っているに過ぎません。

 また、1つ付け加えると、大企業のPoCはスタートアップと組んで実施されることもありますが、知財や情報開示の点でフェアではない組み方がなされる残念なケースも見受けられます。さらに、なぜかスケール化をスタートアップに丸投げする事態も起きているので、スタートアップの側は大企業のPoC幻想にからめとられないように注意が必要かもしれません。

6.情シス幻想

 これは、DXは情報システム部門がやってくれる、という幻想です。ITが経営の根幹に関わる戦略アジェンダだと認識されている海外企業に対して、そもそもシステムやITの位置づけやリテラシーが低い日本企業は大きく後れを取っています。基本的に、内製化ではなく、システム構築を外注に頼り続けていることも、長くシステムやITを「よくわからないから」と経営が遠ざけてきた姿勢の表れでしょう。

 位置づけが低く外注が中心だからこそ、コストを下げる方向にばかり意識が働き、情シスはコストセンターとみなされていることも問題です。全体像がなく、場当たり的な構築が続いている状態は、改築が重ねられ本館と別館と新館が複雑な迷路のようにつながっている“昭和の温泉宿”のようですよね。仮に可能性のあるデジタルサービスの芽が生まれたとしても、そんな基幹システムでは支えられません。DXをどの部門が推進するかは、日本だけでなく世界中の企業の課題ですが、少なくとも情シスに放り投げてうまくいくはずはありません。

7.アナログ幻想

 最後にとてもやっかいな幻想を挙げると、デジタルをベースに構造改革とビジネスモデルの革新をしようとしているのに、根本的には当事者たちがデジタルを信じていないことです。重要な舵を切る局面で突然「人の温もりが大切」「伝統を変えてはいけない」などとオールドな方々が主張し始め、結局そこでストップしてしまうケースが皆さんの想像以上に多いのです。そもそもこれまでも相当に製造、物流、業務管理などの分野でテクノロジーの恩恵を受けてきたのに、こと顧客接点のデジタル化がテーマになると、わからないことへの恐怖感からか、一部の人にアレルギー反応が起こるようです。「最終的にはアナログなのだ」という安易な信仰は、本当に断ち切ってほしいです。

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コーポレートのパーパスに立ち返り、改革していく

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:48 https://markezine.jp/article/detail/34050

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