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三菱地所、NRIデジタル、プレイドに聞く KARTE活用とCDP構築で前進するオンオフ融合の街づくり

 丸の内エリアを中心に、長く街づくりに取り組んできた三菱地所が、グループを挙げてDXに取り組んでいる。NRIデジタルをパートナー企業に、プレイドのCXプラットフォーム「KARTE」活用と裏側のCDP構築を同時に推進。丸の内の就業者や来訪者などへデジタルとフィジカルを横断したコミュニケーションの実現へひた走っている。三社の担当者に、「街のCX向上とDX」における課題と取り組みの現状を聞いた。

新規事業を皮切りに三菱地所が全社でKARTE導入へ

――今回は、三菱地所さんのDX推進についてお話をうかがいます。御社はビル開発と管理、商業施設やホテル運営などハード面の街づくりから様々なサービスまで手がけられています。まず三菱地所の春日さんから、今回のDX推進に関する座組をうかがえますか?

三菱地所 DX推進部 主事 春日慶一氏
三菱地所 DX推進部 主事 春日慶一氏

春日:私が所属するDX推進部ができたのが1年半前のことです。当初から、NRIデジタルさんにパートナー企業として入っていただき、当社がどのようなCXを提供し得るか、それに対してどのようなデータ活用が必要かといったことを議論してきました。

 その過程で、CXプラットフォームとしてプレイドさんの「KARTE」を提案いただき、以降はプレイドさんも交えて全事業へのKARTE導入と、Googleクラウドへデータをすべてつなぎ込んだ事業横断のCDP構築を並行して進めています。

――そもそも、DX推進部発足の背景にあった課題は?

春日:当社は元々、フィジカルな顧客接点を無数に有しており、それが強みです。ただ、就業者や住宅居住者はもとより、街に訪れて楽しむ方の目的は多様であるにもかかわらず、個人との接点が事業ごと、アセットごとに散発的になり、一人のお客様としての関係を継続しにくいことが長年の課題でした。デジタルの接点を通して就業者や来街者がどういうマインドなのかを理解し、よりよいCXを実現するために、全社でのDX推進はマストだったんです。

小規模サービスを走らせながら全社CDPを構築

――顧客接点を点ではなく線で捉え、個々にアプローチして関係を築いていくために、顧客理解が不可欠だったのですね。

春日:はい。これまでも、たとえば住宅事業の顧客が我々の運営する三菱一号館美術館のイベントに多数応募されるなど、異なる事業の顧客でも親和性が高いと感じていました。クロスでの接点をデータで把握できれば、One to Oneで充実したアプローチが可能になります。NRIデジタルさんと議論し、またKARTEを知っていく中で、事業横断やサイト横断の連携が実現できるとわかり、全社でのCDP構築と並行して導入していくことになりました。

――NRIデジタルさんは、今回なぜKARTEを提案されたのですか?

NRIデジタル ディレクター ビジネスデザイナー 吉田純一氏
NRIデジタル ディレクター ビジネスデザイナー 吉田純一氏

吉田:今回必要となったシステムの要件に、KARTEの長所がまさに合致したからです。

 一昨年から三菱地所さんに並走する中で、大きく2つの要件が浮かび上がっていました。一つは部門横断かつ、オンラインとオフラインをまたいだ一元化したデータ基盤の構築。もう一つは、社内新規事業などの小規模なプロジェクトでもそれらを即実装して動き出せることです。各プロジェクトが機動的に進展しながら、全体としては整合性が取れる状態にすることが求められました。

 過去にプレイドさんとは多くの案件をご一緒してきましたが、小さいサイトでも明日から分析やアクションをしながら、裏側はGoogleクラウドにつなぎ込んで大きな基盤にデータを蓄積していくという、一見相反する活動を両立できることが特徴だと実感していました。そこで三菱地所さんのニーズにマッチするものとして、KARTEとGoogleクラウドをセットで提案した経緯があります。

「CX」「DX」「EX」を一体で進めるKARTEの思想に合致

――プレイドさんとしては、この話をどう受け止めたのでしょうか?

プレイド 取締役 髙栁慶太郎氏
プレイド 取締役 髙栁慶太郎氏

髙栁:プレイドでは「顧客を知る」ことを重視し、ユーザーを一人ひとりの人として捉えたCXの向上を支援してきました。現在、CXに加えてDX、そしてエンプロイーエクスペリエンス=EXの3つをともに進めることが重要だと提唱しています。なので、顧客理解を根幹に据えられた三菱地所さんの考えには強く共感しましたし、同社の事業では企業内で開発を担う人の環境を向上していく「デベロッパーエクスペリエンス」も大事な観点だと思いました。

 NRIデジタルさんとのお付き合いもそうですが、当社はこれまでもパートナー企業やクライアント企業と模索する過程でプロダクトを進化させてきました。ただ、Webやアプリなどオンラインでの支援が中心だったので、今回のように膨大なオフラインの顧客接点をオンラインと接続し、事業横断でCXを向上させることは非常にチャレンジングだと感じましたね。

――プレイドさんにとっても貴重な機会になったのですね。では、プロジェクトの進行状況と現在について教えてください。

春日:約1年前から、具体的にKARTEでできることを詰めていき、今年度に入ってグループ共通での導入を決定しました。以前から個別にKARTEを導入している事業、また新規導入する事業を含めて、今個別にフォローしている最中です。たとえば大手町・丸の内・有楽町エリアの就業者向け会員サービス「update! MARUNOUCHI for workers」や、当社住宅事業グループ関連の会員組織「三菱地所のレジデンスクラブ」、社内新規事業の様々なフィットネス施設を都度利用できるサービス「GYYM(ジーム)」といった新しいプロジェクト等、続々と実装していっています。

位置情報×顧客理解で進める、街におけるCX向上

――現時点での手応えをうかがえますか?

春日:既にKARTEを使っていた事業では、事業横断で可能になる事業間の送客や回遊といった広がりに社内で驚きの声が上がっています。我々も各事業部と課題意識を共有することで、今後の取り組みの解像度が上がっていきました。

 また、KARTEはスピード感も衝撃的です。以前はサイト内のちょっとした施策でも1ヵ月以上前に計画し、改修に2~3週間、都度課金も当たり前に発生していました。それがわずか数日で、しかも固定費内でできるので、トライ&エラーの経験も積めますし、社内のモチベーションも高まっています。特に予算が少ない小規模プロジェクトにおいては、一定の推進力になっていますね。

オンラインとオフラインおよび事業(ブランド)横断の施策イメージ
オンラインとオフラインおよび事業(ブランド)横断の施策イメージ

吉田:手頃でクイックに導入できるプロダクトはスケールしにくいとか、いずれ高額なシステムへ乗り換えが必要だと思われがちですが、KARTEにはまったく当てはまりません。従来は1~2年がかりで構築支援していたCDPですが、今やKARTE(KARTE Datahub)を1ヵ月ほど回せば遜色ない基盤ができます。ビジネス環境全体のデジタル化もあるものの、それを先んじていると思っています。

――なるほど。ではこの先、顧客理解により、どのようなことが可能になるのでしょうか?

春日:たとえば来街者に街の共通IDを発行したとしても、スマホへのクーポン配信で終わってはあまり意味がなく、その方が本当にクーポンを丸の内エリアでいつ、どんなシーンで使ったのか、実際の来店履歴や位置情報などと紐づけて把握することが大事です。セミナーを申し込んで実際に来場したのか、などを把握することもメリットが大きいと考えています。

将来的なデータ連携イメージ
将来的なデータ連携イメージ

プッシュ型の提案を通してポジティブな態度変容を促す

――位置情報は、とてもフィジカルなデータですね。

春日:そうなんです。我々の本業はあくまでフィジカルなビジネスで、大きく掲げているのは安心安全な街づくりです。位置情報でわかる人の動きは、もちろん建物づくりや街づくりに有効ですが、それには時間もかかります。一方で、KARTEとデータ基盤を通して、ポジティブな方向へ行動変容を促すことは短期間でできます。

 たとえば“三密”を避けるために様々なペインが生じている今だと、ビルの共用ラウンジや喫煙所、店舗などの混み具合が、オフィスフロアから降りる前にわかるといいですよね。「今は混んでいますが、空き始める1時間後に使えるクーポン出しておきますね」といったプッシュ型の提案ができると、人の流れは変わるかもしれません。そうした方向での活用には、BtoC事業だけでなくビル管理や運営といったBtoBの担当者からも高い関心が寄せられています。

――街づくりというフィジカルなシーンにもKARTEが貢献している状況を、サービス提供側として髙栁さんはどうご覧になっていますか?

髙栁:街自体がフィールドであることは、とても興味深い点です。KARTEはCXプラットフォームですが、三菱地所さんほどの規模感になると、いわゆる市民の体験のアップデートも視野に入ってきます。シチズンエクスペリエンスという要素に対して、我々も考えを深めているところです。

 コロナ禍でリモートワークが一気に進んだ今、「この街に行く理由」が薄れています。今後は、選ばれる街になるために、体験のアップデートがより必要になっていくのではないでしょうか。

デジタルの風呂敷を広げ、オン・オフを問わず楽しめるように

――壮大なプロジェクトの進展が楽しみですね。最後に、今後の展望を聞かせてください。

春日:今年中から来年前半にはCDPの実運用を目指し、顧客への情報提供や提案に取り組んでいく予定です。各事業が個別に進めていたデジタルサービスも一元化して、ロイヤルティマネジメントにも貢献したいですね。オフラインの施設とオンラインを跨いだ顧客体験を提供することで、一人ひとりの体験がアップデートされるのではないでしょうか。

 リアルな場所には愛着が生まれやすいため、これまではそこに頼ってきたところもありました。ですが髙栁さんのご指摘のように、働き方の変化などによってその愛着の拠り所も変わると想像しています。今後は意識的に、街を行き交う人との関係を深めていきたいです。たとえば健康や食、アートといったリアルならではの切り口も視野に入れ、大きくデジタルの風呂敷を広げた上でフィジカルな活動を再構築して、有機的に街を楽しめるようにしたいですね。

――その構想を、両社はどのように支えていきますか?

吉田:引き続き、事業間の連携とオン・オフの連携という2つの“つなぐ”部分を支援していきたいです。KARTEとまた別のシステムを組み合わせ、最適な仕組みを構築することで、より良いDXを推進する一助になれればうれしいです。また、プレイドさんとは過去のプロジェクトを通して、新たな機能や使い方を研究し反映してきたので、今後もKARTEの拡張に寄与できればと思っています。

髙栁:もはや“PDCA”ではなく“DCPA”、まずやってみて検証するサイクルの時代になりつつあるのではないでしょうか。そんな環境を提供できるプロダクトとして、KARTEをさらに進化させたいですね。三社の連携でCX、DX、EXの好循環も加速できると思うので、街における良い体験の提供を引き続きご支援したいです。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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MarkeZine(マーケジン)
2020/09/28 11:00 https://markezine.jp/article/detail/34067