「AI万能説」に騙されない。マーケターの視点が生きるAIとの向き合い方
セッションの終盤からは、ARISE analyticsの桝本氏が登場。いまだAIについてまわる誤解を解きながら、マーケティング業務にAIを活用するポイントをまとめた。
例に挙げたのは、UQの事例にも登場した施策の高度化だ。フェーズ1「データ収集・整備」では、業務知見のデータベース化を行うが、一部のクライアントからは「AIは万能で即効性がある」「最新のモデルで分析してほしい」などの、過度な期待や依頼が根強いと桝本氏は語った。
同氏は「小骨を取り除いたデータ」と例えたが、業務メンバーとコミュニケーションを取りながら、仮説を立て、実務に必要なデータベースの作成はスキップできない。データのクレンジングがAIの予測精度を上げ、人の解釈性も高めるため、スピードを保ちながら、関係者間で目線を揃えた取り組みが必要だ。
フェーズ2「予測スコアの整備」では、何を予測するかが重要となる。しかし、「とりあえずAIを使ってみよう」の声は多いという。
「顧客満足度を上げたいのか、マーケティングチャネルの最適化なのか、何に注目してAIを活用するかは、まさにマーケターが意思決定すべきところです」(桝本氏)
分析担当者の采配やAIに頼りきることなく、しっかりとモデルやスコアの意味を捉えながら、上流の施策設計に生かしていく姿勢が求められる。
そして、フェーズ3の「施策に寄りそった高度化」では、1歩ずつ前に進む意識が必要だ。AIは導入してすぐに成果が出るものではない。特にマーケティングにおいては「誰に・いつ・どのような施策を行うか」とモデルのチューニングポイントが多く、最適化に時間がかかる。「正しい効果検証とPDCAを回す仕組み化・自動化を優先しましょう」と桝本氏は語った。
AI活用をスケールする、文化の形成
続いて桝本氏は、AI活用を戦略的にスケールするポイントを挙げた。
マーケティング領域のAI活用を進めていくと、業務、IT技術、組織・人材の壁にぶつかるときがあるという。桝本氏は、企業を変革する6つの要素を表すフレームワークのSix-bubblesを例に、「企業はAI活用を前提とした、業務、IT、組織、評価制度に変え、最終的には文化を作っていく必要がある」と話す。
実際にUQモバイルでは、2018年のプロジェクトスタートから、業務プロセスの見直しを行ってきている。また、業務担当者がデータを活用できる環境作りだけでなく、経営層のコミットを得た上で、組織を横断する取り組みを実現した。そして、人材育成のプログラムも改善が続いている。
「自社にどのようなAI人材が必要かを定義しましょう。そして、組織にどう配置するか、評価軸はどうするか、さらに業務も準備します。これまでなかった職種を受け入れ、文化を作りながら、戦略を実現していくのです。このような観点が、AI活用をスケールするためには重要です」(桝本氏)
最後に桝本氏は今回のセッションの内容をまとめた。AI活用のファーストステップは、社内のデータを選別して整備し、新しい取り組みをはじめるコンセンサスを取ること。そしてデータ分析のサイクルを回しながら、データのガバナンス面も整備する。
次第にAI活用の基盤ができ、拡大のフェーズに入ったら、ソリューションの導入を検討していく。そして、組織として取り組まなければ、AI活用の定着はおろか、スケールはしない。一方で、ビジョンだけでも、足元に閉じたアクションを繰り返すだけでも、AI活用は限定的になってしまう。桝本氏によれば、「ビジョンとアクションの両面で進めることが大事」だという。
KDDIとの取り組みから得た実績と、アクセンチュアの持つグローバルな知見やノウハウを融合させ、データ分析・AIにより企業の課題を解決するARISE analytics。「今後も、スピードと品質を担保しながら、大規模なエンタープライズのAI活用を支援していく」と桝本氏は語り、セッションを締めくくった。