「オムニチャネルはバズワード」で終わらせてはいけない理由
座談会の終盤には聴講者からの質問に回答。本記事ではその一部を紹介する。
Q:ビジネスモデルのイノベーションという話がありましたが、マーケティングにおけるオムニチャネル戦略論と、経営学における経営戦略論の理論的な関連性は、どのように考えられるでしょうか。
A:マーケティングと経営学・経済学では「市場」の捉え方がいくつかの点で異なります。マーケティングでは、経営学や経済学と比べて「市場」を深く細かく考えるベースを持っており、オムニチャネルの発想もその市場観が根底にあります(近藤教授)。
マーケティングにおける「市場」
・多製品市場(品揃えという概念を用いる。経営学、経済学では単品の市場を想定)
・多段階市場(チャネルという概念を用いる)
・空間市場(商圏の概念を用いる)
Q:チャネルの概念はマーケティングの中核を占めつつあると思います。今後も“オムニチャネル”の呼称を使い続けていかれるのでしょうか?
A1:オムニチャネルについて「過去の言葉だ」と否定的な見方をする人もいますが、これからも重要なテーマであり続けるとみています。その根拠は新しい顧客層が生まれていく「ビックミドル」という層の誕生がある。ネットで見て店舗で買うか、店舗で見てネットで買うとか、これに慣れている人がどんどん増えてくる。これをどう捉えるか見たときに、オムニチャネルの概念がそれを説明するのに一番近いのです(金教授)。
A2:この本がそうであったように、オムニチャネルにはマーケティング論に内包しきれない側面もあります。以下の図はオムニチャネルのフレームワークです。企業の中には経営の下にそれぞれの組織もオペレーショナルな部分もありますよね。バズワードと捉えている人もいますが、この枠組みを完全に体現できている企業はほとんど存在せず、引き続き重要な概念と言えるのではないでしょうか。(逸見氏)

Q:オムニチャネル化はどの程度進めるべきでしょうか。また、各部門の業績を評価するためにどんなKPIを設計すべきか教えてください。
A:日本のEC化率は6~7%、特に進んでいる家電、文具といったジャンルでは30~40%というのが現状です。先進企業では50%近くまで上昇しているとも言われます。私がカメラのキタムラにいた頃は、全体の45~50%程度が適正ではないかと考えていました。それ以上比率が上がると、オペレーションの大幅な変更が必要になるからです。
評価軸については二つの考え方を紹介します。一つは売上ではなくLTVを評価軸にする方法です。各部署がリピート顧客をどれだけ増やしたのか、財務諸表とつなげながら評価していきます。
もう一つは売上のほかに「関与売上」という評価軸を新しく作る考え方です。この考え方では、ECで決済し予約店舗で受け取った場合、その両方に売上を計上します。コールセンターが送客した場合はもちろんコールセンターにも売上をつけます。組織間の協力を生み出すという点では、この方法がやりやすいのではないでしょうか(逸見氏)。