PRはパーツの一部なのか?
危機的な状況の中、企業の事業部とPRチームはどのように対応にあたっていたのでしょうか。平時以上に連携して動いていた企業があった一方、事業部はPRをコストと捉えてしまう、逆にPRチームは事業部が発するメッセージに対し「社会の状況をわかっていない」と不信感を持ってしまうケースも見られました。
両者が手を取り合えるかどうかには、経営層やブランドマネージャー、マーケターがPRをどのようなものと捉えているかが大きく影響します。PRには、Public Relationsという語が表すとおり、「このブランドは社会とどういう関係を築いていくのか」という大きな問いについて考え、実行していく役割があります。ブランドが社会と関係を構築していく上で、“行っていること”と“その発信”に一貫性を持たせるためには、両者の連携は欠かせないはずです。
しかしPRを「発信機能」「企業が有するパーツの一つ」とだけ捉えていると、連携が必要という発想にならず、結果としてブランドの行動と発信がバラバラになってしまいます。もっと言えば、マーケターも頭の中にPR発想を持たないといけない。それはたとえばマーケターが必要十分な法律や会計の知識を持っているのと同じ感覚です。
「ナラティブ」を判断軸に
2021年のキーワードには「ナラティブ」を挙げたいと思います。グローバルな広告PR業界では3〜4年前から、ストーリーテリングからナラティブへの移行ということが言われてきましたが、その重要度はコロナ禍で一層高まっています。
ストーリーとナラティブ。日本語に訳そうとすると難しいのですが、両者は明らかに違うものです。まずは主役の違いが挙げられます。ストーリーはブランドが主役で、ストーリーを通じてブランドの良さを伝えていく。『プロジェクトX』のようなイメージです。そして「起承転結」と言われるように、必ず終わりがある。一方ナラティブはより共創的で、生活者も含めたあらゆるステークホルダーが主役です。自分たちのブランドについて魅力的に語ればそれで良い、ということではなく、それが生活者一人一人が持っている物語にどのような意味をもたらすかを示すことが求められます。また、ナラティブは現在進行形で、みんなで延々と紡いでいくものです。
パンデミックの状況ではエッセンシャルなものしか求められないため、市場の中で「競合に対してどんな優位性を持っているか」を示しても、生活者には届きません。社会を舞台に「我がブランドはどうありたいのか」を考え、「それがあなた(生活者)の日々にどういう意味を持つのか」を示していく必要があるのです。そして、ナラティブの起点にあるのがパーパスです。策定したパーパスは豊かなナラティブにすることで、ステークホルダーに伝わっていきます。
2021年以降も様々なマーケティング・PR施策を計画、実行していくことと思いますが、「その施策はブランドが描くナラティブに合致しているか」を考えることが一つの手がかりとなるでしょう。