アウトカム・シフトがもたらす未来
国内ヘルスケア市場で今後、さらにアウトカム重視の流れが10年20年と進んだ場合、どのような市場の変化が起こるのだろうか。最後に、その変化を踏まえ、戦略的にこれから何に投資していくべきか、そのヒントとして、これから飛躍的な成長が期待できる市場の領域を予測したい。
アウトカム・シフトがもたらす最も重大な変化は、医療プレイヤーの活動範囲が受動的な患者への治療から、能動的な予防・健康管理へ拡張することだ。医療経済のアウトカム最大化の流れが加速することで、医療プレイヤーが従来の病院などの施設内に限定した活動から施設外の日常生活まで踏み込んだサービスを提供するようになる。
現在の医療費は少なくとも50〜60兆円に達する巨大な金額が動いており、国内市場に及ぼすインパクトが他とは比べものにならない。保険償還の適用範囲が、ウェルネス市場のカテゴリーまで及び、現在まで二分していたウェルネス市場とメディカル市場の融合が進むはずだ。それら一連の変化を踏まえて、大きく二つの領域で市場の飛躍的な成長が期待できる(図表4)。
一つ目が、ウェルネス市場と隣接するライフスタイルが融合した領域だ。社会全体の高齢化が一層進むことで、生活者の中核をなす関心テーマは健康となる。そこに、保険償還による巨額なマネーが医療分野から健康の維持・向上を目的とする分野へ流れ込み、隣接する食品、労働、住居、ファッション、レジャー・エンターテイメント、教育といったライフスタイル市場を巻き込んで、健康と融合した新たな市場が拡大するはずだ。
二つ目が、医療のパーソナライズ領域だ。個人の日常生活まで踏み込んだペイシェント・ジャーニーを強く意識した取り組みが増え、デジタル・テクノロジーによる関連データ(属性、DNA、受診歴、薬歴、食生活、運動など)の統合的な分析が進み、個人の状態に応じて最適な医療が提供されるようになるはずだ。特に、日常的な健康マネジメントが効果的に機能しやすい慢性疾患の治療では大きな期待が見込める。実際に規制緩和が進む米国市場では、糖尿病など生活習慣病の患者を小型の検査デバイスを使い、24時間モニタリングしながら遠隔医療サービスを提供するプレイヤーが大きな存在感を見せ始めている。
以上のように、アウトカム(生活者の健康)・シフトがもたらす未来は新たな市場を生み出し、反対にアウトカムを軽視する市場やプレイヤーを衰退させるはずだ。ヘルスケア市場での成功を考えるプレイヤーは、戦略的にアウトカムを捉える必要がある。
