メディアを取り巻く状況を踏まえたプランニングを
――Living Roomというメディア接触の“場所”に注目する考え方は興味深いです。具体的には、どのようなことに注目しながらプランニングしているのでしょうか。
Living Room全体でユーザーがメディアをどう意識するか、試行錯誤しながらプランを組み立てています。コロナ禍で家にいることが増え、今後もテレワークの浸透をはじめ働き方自体に変化が起こると考えています。それを踏まえて、LivingRoomにあるメディアから接触し、カテゴリーへの意識を熟成、そしてブランドの選好度を増やしてもらうコンセプトやコンテンツを考えています。ただし、まだメディアをまたいだアトリビューションをタイムリーに捉えることは完全にできておらず、今後、最適化を図るべき領域です。潜在ユーザーの中で、たとえばスマホで1回接触した人のほうがそうでない人と比べてPCでのコンバージョンが高いかなど、サーベイではなくしっかりと行動をトラックして、結果を定期的に測る必要があると認識しています。
また、メディアのコンテンツにも変化が見られます。先ほど言及した通り、ネットコンテンツをテレビで観る人、またテレビコンテンツをネットで観る人も増えており、その人たちはConnectedTVと呼ばれるネットに接続されたテレビでYouTubeを観たり、HuluやNetflixなどの定額制動画サービスを観たりする人たちです。メディアもコンテンツも選択肢を広げた上で、最適化する必要があります。
そして、広告から影響を受ける度合いにも同様に変化が見られます。個々人によって制作されたコンテンツや専門家のオピニオンなども増えていますし、YouTubeを筆頭とするソーシャルメディア・コンテンツなどの勢いも日に日に増しています。そのような中、メッセージの影響度を高めるためには、いかにメディア全体で一貫性を持たせるか、各モーメントでアンテナに引っかかるメッセージを発するかが重要になります。
――「Adobe Creative Cloud」のプロモーションでは、コラボやパートナーシップ施策にも積極的に取り組まれている印象です。「#吉本自宅劇場」における写真コンテスト(※1))、「#左ききのエレンアドビ編(※2)」(図表1)などの施策も拝見しました。タッグを組むことによって実現できるコミュニケーションについては、どのように考えていますか。

コラボやパートナーシップは、自社が持っていないアセットを活用し、自社がリーチしたい潜在顧客にリーチできる効率がよいメディア施策であり、自社のブランドをより広く認知させ、ブランドを強めることができる可能性を秘めていると考えています。ただし、先方とWin-Winのメリットを見出すことが大前提であり、先方が進みたい方向や今後目指すビジョン、並びに目的と細かいKPIなどを共有する必要もあり、一筋縄ではいきません。
また、製品を売り込むわけではなくお互いのアセットを使い合うことから、お互いのブランドを強める必要があり、それぞれのブランドの定義や親和性を理解する必要もあります。それらがうまく「ハマった」場合は、とても大きな力を発揮する施策です。たとえば「#吉本自宅劇場」に関しては、エンターテインメントとクリエイティブは切っても切れない関係性にあり、それを視聴する人もクリエイティブや自己表現に対する興味関心を持った層です。「#左ききのエレンアドビ編」の場合も、漫画のコンテンツ自体が広告代理店のストーリーであり、ブランドの親和性も「ハマった」事例だと思います。そしてTikTokやYouTubeとのパートナーシップは、今後のソーシャルメディアにおける潜在ユーザーや顧客層へのリーチ効率を上げてくれますし、それぞれが目指すブランドで創る世界は「自信をもって自由に自己表現をさせてくれる」アドビのブランドと親和性が高いと判断できます。
――最後に、今後の展望をおうかがいします。本号の特集テーマ「ブランドの魅力が伝わる、戦略的な顧客接点」に照らして、今後注力していきたいポイントがあればお話しいただけますか。
いわゆるマーケティングの基本である潜在ユーザーや顧客の理解、また変化を捉えたり、変化を自ら創造したりすることで、カテゴリー自体を伸ばすことはもちろんですが、まずは自社のカテゴリーをしっかりと理解し、購買サイクルか短いのか長いのかを捉える必要があると思っています。短い場合は市場浸透率が高い場合が多く(フリーミアムは違いますが)、特に購入に近いメディアに集中させるだけでうまくいくことが多い一方、長い場合は潜在ユーザーに影響度が高いメディアやモーメントを、潜在ユーザーの行動や生活様式、そしてその場におけるインサイトから捉えて、いかに多角的にアプローチするかが重要になります。
当社としては、新たな働き方や自己表現の場を求める潜在ユーザーや顧客層、Micro SMBといった少人数でビジネスを経営する人々、そしてフリーランサーや副業を始めるBtoCやBtoBといった枠組みで捉えきれない層など、コロナ後の生活の変化を捉え、Living Room Media Strategyを念頭に置きつつ、より自己表現へ興味関心を引くコンテンツ・クリエイティブをモーメントに合わせて開発していく予定です。
※1 吉本興業はコロナ禍において自宅からコンテンツを楽しめるプロジェクト「#吉本自宅劇場」を展開。アドビはその趣旨に賛同し、写真や動画のコンテストを共同開催した。
※2 集英社の少年ジャンプ+における連載「左ききのエレン」とコラボレーションしたオリジナル漫画(前編・後編)を公開。コロナ禍の影響を受けるクリエイターを支援するキャンペーンも同時展開した。