「もっと頑張りたいのに」孤独を抱えるひとり広報も
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は異なる立場から広報PRに従事している3名をお招きし、「ひとり広報」をテーマに考えていきたいと思います。本田さん、まずはこのテーマについて説明をいただけますか?
本田:外資系PRファームの代表をやっていたところから3年前に独立し、それまであまり接点のなかったベンチャー・スタートアップの方々ともかかわるようになったのですが、未経験で社内にノウハウがないところから広報になって、誰にも教えてもらえず孤軍奮闘しているケースをよく目にするようになりました。
広報PR従事者が増えていることは間違いなく良いニュースですが、悩んでいる人になにができるか、新しく入ってきた人にどうやってスキルを獲得する機会を持ってもらうかは、業界全体で考えるべき課題だと思っています。
MZ:北野さん、日比谷さんはご自身もひとり広報のご経験をお持ちです。
北野:私は新卒で現在の会社に入社し、営業を4年、その後、未経験・一人で広報になって6年目というキャリアです。広報仲間や、他社のひとり広報さんから「もっと頑張りたいのにどうすればいいかわからない」と、相談されることがあります。
私も最初はそうだったのですが、広報の仕事=メディア対応やリレーションだと誤解してしまうのは、よくあるケースかもしれません。本当はその手前に目的があり、解決策もいろいろ存在しているはずなのですが、それらを飛ばして「メディアリレーションを築かないと。でもメディアの知り合いもいないし、やり方もわからない」と困ってしまう。対メディアのことだと思うと、社内にも相談しにくくなってしまいます。
人材育成の不足とスキルセットの変容が同時に起きている
本田:基礎となるスキルセットがインプットされていないために、打ち手の幅が狭くなっているという状況は、確かにありますね。ネットを中心に事例やノウハウがシェアされるようになってきましたが、それらの情報は体系化されているわけではないので、理解に偏りが生じてしまうこともあります。
日比谷:私も社内ノウハウなし・未経験から企業広報になり、5年前に独立しました。2013年頃から「BtoB/IT広報勉強会」を主催してきたのですが、最近、参加者が勉強会に求めることが変わってきていると感じます。かつてはメディアの方と直接知り合いたいとか、特定の手法について知りたいという方が多く、最近はいま本田さんがおっしゃったような、基本的な考え方や戦略策定を教わりたいという人が増えています。
でもそれは「広報とは?」という概念を知りたいということではないんです。概論を既に教科書などで読んでいても、実践ではなかなか活かせない。概念とそれぞれの打ち手の間をつなぐ、中間部分のコンテンツが足りていないのかもしれません。
本田:一方で、ベテラン広報勢が完璧かというとそうではなく、時代の変化に応じて新しいスキルを獲得していく必要があります。この点、従来のやり方に囚われずトライしているひとり広報さんはたくさんノウハウをお持ちですが、ベテラン世代との接点があまりなく、シェアされていない。逆にひとり広報側は、普遍的なスキルを習得する機会を持てていない。この分断は、本当にもったいないことです。
まとめると、従事者が増えたことで人材育成が追いついていないという問題と、広報PRに求められるスキルそのものが変わってきているという問題が、パラレルで起きている。これがいまの日本の広報PRではないかというのが、私の理解です。