ブランドは企業価値を左右する無形資産である
――ブランドやブランディングには、学術的またはビジネス視点での様々な考え方、フレームワークが存在します。インターブランドが考えるブランディングについて教えてください。
インターブランドは、ブランディングを専門にしたプロフェッショナルファームとして1974年にロンドンで創業しました。「ブランド」という言葉は創業前から存在していましたが、これにingを付けて「ブランディング」という言葉を広めたのは、インターブランドだと言われています。
我々は、ブランドを「常に変化する事業資産であり、企業価値を左右する無形資産である」と定義しています。無形資産であるブランドを定量化し、マネジメントできるようにしてこそブランディングの意味がある。この考えのもと開発したのが、ブランドの持つ価値を金額換算するブランド価値評価手法(Brand Valuation)です。

ブランド価値評価手法を開発した最初のきっかけは、敵対買収されようとしていた会社が、自社の本当の企業価値を示すために、貸借対照表には載っていない価値としてブランド価値を証明しようとしたことにあります。つまり、そもそもが経営視点なのです。インターブランドにおけるブランディングが、ブランドイメージや好感度、NPSといったところに留まるものでないというのは、その出自の違いが一つあります。特集内で選定した味の素のように、一部の企業では、ブランド価値を中期経営計画の目標や非財務指標に定める動きも出てきています。
ブランド価値評価手法については「インターブランド「ブランド価値評価」の仕組み――強いブランドが有する10の要素とは?」の記事で解説しています
ブランディングは「経営アジェンダ」として取り組むべき
――「ブランドは定量化してマネジメントする資産である」とのことですが、具体的にはどのようなアクションを通してマネジメントが可能なのでしょうか?
ブランディングは、実態をつくる活動と評判をつくる活動の両輪です。社会的な存在意義を持ち、それを実現するために計画・準備・行動などの実態をつくり、その活動をどうやって伝えていくか?を考え、評判をつくる必要があります。
過去語られてきたブランディングは、“今ある実態”を伝える評判づくりが主体でした。しかし、今、ブランドがパーパスで掲げている世界は、事業の積み重ね(今ある実態)だけでたどり着けるものではありません。ですから、掲げた世界へ向かうためには、やはり企業単位で事業を見直すことが必要になりますし、事業実態をつくった上で人々のパーセプションをいかに変えていくかを考えていかなければなりません。これらの包括的なマネジメントこそが、ブランド価値経営であると言えます。
ブランド価値経営のマネジメントにはいくつか方法論があります。インターブランドでは、まず不変に近いパーパス(Purpose)を設定し、時限的な目標としてアンビション(Ambition)を考えます。次にアンビションを達成するための手段としてトラジェクトリー(Trajectory)を描き、現時点とアンビションとのギャップを埋めていきます。このとき、継続的にギャップを改善しながらも、どこかで飛躍的に人々のパーセプションを変える必要があり、この非連続的なパーセプションシフトを起こすための打ち手をインターブランドでは「Iconic Moves(象徴的な打ち手)」と呼んでいます(図表1)。ブランディングとは、こうした一連の企業全体での活動を通して、パーパスを実現していくものだと考えています。

――現在マーケティングで語られる“ブランディング”とは、枠組みが異なるように思います。一世代前のブランディングに留まっている、という言葉の理解も深まりました。
ブランディングは、マーケティング部を主とするコミュニケーション部門だけで行うのではなく、ロジカルに定量的に、部門を横断して企業全体で取り組む経営アジェンダです。NPSなどをKPIに設定し、そのKPIをウォッチしていれば、最終的には競合と差別化できるよね、ブランドへの好意度が上がるよねといった、いわゆる狭い意味でのブランディングの概念とは異なります。もちろん、マーケティング部が起案し中心になって動く形でも良いのですが、他の部の人たちに「ブランディングってマーケティング部の仕事でしょ」と思われるようなことは避けなければなりません。そのためには、ブランディングの取り組みを定量化・可視化することが必要で、そのためのツールとしてブランド価値評価があります。
そして、ブランディングについて考える際に必ず意識したいのは、目的と方法が逆転するリスクが常にあるということ。ここまでお話ししてきたブランドのマネジメントは、パーパスを実現するという目的を達成するための方法です。間違っても、ブランドのマネジメントがブランディングの目的になってしまってはいけないのです。