消費者が持つ“美の価値観”を定量・定性で可視化する試みも
――多様性の反映については、ブランドメッセージ以外のところでも取り組みを進められていますか?
はい。ビジネスモデル上、1つの商品を多くのお客様へ提供するという前提は変えられませんが、「商品をお客様にどう使っていただくか」「どんな価値を感じていただくか」といった切り口はたくさん用意することはできる。ですから、「こういうお客様ならこんな使い方をするのでは?」「こう感じるお客様もいるはず」など様々な視点を持ちながら、企画・開発を行うことを大切にしています。
実際に、商品を企画するときは男女共に使うことを前提として考えることのほうが多くなりましたし、年齢にもあまり縛られなくなってきています。ともなって、商品のデザインも白×ピンクの女性らしいものから、男女で使えるニュートラルなものに変わってきています。ブランドメッセージを「テクノロジーで、確かな効果を。」に変えた際は、店頭の什器からWebサイト、カタログまですべてのクリエイティブを刷新しました。メーカーからの押し付けをできるだけ排除し、お客様が自身の価値観で自由に商品を捉えられるような見せ方を意識しています。
――北岡さんが現職のビジネスデザイン部で進められている商品カテゴリー間をまたいだコンセプトメイキングなども、多様性への取り組みにつながってくるのでしょうか?
そうですね。他にも、今、世の中にどのようなお客様がいるのかを「美容に対する意識・価値観軸」で可視化してまとめるというプロジェクトを、まさにこれから行おうとしています。商品カテゴリーを横断したメンバーで議論し、社内へ共有できるような形に整理していく計画です。このとき、時代のトレンドを掴んでいらっしゃる雑誌の編集者や美容家、インフルエンサーなどプロのご意見も反映させていきたいと考えています。

たとえば、これまでフェイスケアの商品のマーケティングでは、年齢や性別、ライフスタイルなど“セグメント”を前提にした肌悩み軸でお客様を捉えていました。ですが、美容に対する意識を調査で見ていくと、女性より美容へのこだわりが強い男性もいれば、男性の中でもZ世代など若年層だけが突出して美容意識が高いわけではなく、40〜50代でも美容意識の高い男性はかなり増えてきていることがわかります。つまり、年代や年齢、性別で美容を区切ること自体がナンセンスなのです。年齢性別を問わず、価値観軸で共通項を持つお客様が今ポコポコと出てきている印象があるので、これらの価値観を可視化して整理していく必要があります。こうしてお客様の変化やインサイトをより深く捉え、“個”のニーズに可能な限り最大限お応えしていくことは、メーカーとしての使命であると思っています。
2030年に向けて、Panasonic Beautyのあるべき姿を探していく
――多様性への取り組みにおいては、社内での働きかけとしてインナーブランディングも求められてくるところです。
ダイバーシティ&インクルージョンに関しては、全社的に推進しており、社内教育にも力を入れていますが、まだまだ社内から変わっていかなければならないところはあると感じています。そうした中で、もしかしたらPanasonic Beautyの事業部が担っている役割は、社内においても大きいのかもしれません。美容は特に多様化が進んでおり、“個”を捉えようとする動きも活発です。会社の外でお客様に向けて多様性を重んじた発信をしていくことで、「パナソニックは多様性を大切にしている会社なんだ。大切にしなければいけないのだ」と、パナソニックに返ってくるものもあるように思います。
――最後に2023年の展望をお聞かせください。
美容カテゴリーの市場は、今がまさに過渡期であると思っています。今後、性別関係ないユニセックスの商品やブランドがたくさん出てくる、という可能性もなくはない。また、美容と健康の融合が進んでいる傾向もあり、新たな分野がさらに増えてくる可能性も見ています。
お客様や市場がどう変わっていくのか? 先のことを確実に読むことはできませんが、今表面化してきている小さな変化をつぶさに見つけていくことで、次の仮説を立てることはできるはずです。先述した、美容に対する価値軸でお客様の傾向を可視化するプロジェクトは、Panasonic Beautyが次どう変わらなければならないかを考えるベースにもなる取り組みです。2023年は、2025年、2030年に向けたPanasonic Beautyのあるべき姿を社内で議論していきます。そして、それが次の時代の広告クリエイティブやお客様に向けての発信、ブランドメッセージなどにもつながっていくのだと思います。