担当者のn=1なきブランドは物語らない
高山:現在担当しているブランドがあるマーケターは、n=1からブランドの価値を発見もしくは再発見するために、どのようなことを実践すれば良いのでしょうか。

野崎:自分の人生を振り返ると、発見のきっかけとなる事象が見つかるはずです。僕が文喫をプロデュースした時がまさにそうでした。大学時代、留学したロンドンの書店で一冊の本と出会ったのです。オランダのデザインチーム・Droog designの本で、この一冊をきっかけに僕はデザインの仕事を志すことになりました。当時の経験を通じて「リアル書店の最大の価値は偶発的な出会いにある」と気づき、本と出会うための書店をつくった結果、生まれたのが文喫です。
高山:一人ひとりの人生がn=1であり、そこから接点を見つけていくアプローチは明日からでも真似できそうです。
平山:野崎さんのように、担当者の個人的な“こじつけ”がなければブランドは物語ることができません。そうなるとお客様も物語ることができないため、解釈が生まれるブランドは育たないと僕は考えます。n=1の思いと会社の事業をうまく接続させる作業が大切なのではないでしょうか。
完璧なペルソナには「下世話」が足りない
高山:n=1と似て非なるものの一つに「ペルソナ」があると思います。ペルソナといえば「完璧すぎる」「現実味がない」という問題が浮上しがちですが、お二人はペルソナについてどのようなお考えをお持ちですか。
野崎:スマイルズではペルソナを描きません。なぜならペルソナが自分だからです。もしペルソナを描くとしても、人が表には出さない下世話な部分まで落とし込めるかどうかが大事だと思います。たとえば「異性から褒められたい」という欲望も下世話な部分の一例ですよね。自分がペルソナなら難なく理解できますが、そうでない場合も思いを馳せることはできるはずです。下世話な部分や些末なディティールには“人間臭さ”というリアリティがあるのかなと。
平山:対峙する相手やいる場所によって人のマインドは変わるものですから、僕もペルソナはそこまで気にしていません。特定の誰かにコンテンツを読んでもらおうとすると、どうしてもそぎ落とす作業が発生しますよね。それは非常にもったいないことだと思っています。僕たちが目指しているのは、言いきる/語りきること。その上で届いた人がいれば、コンテンツはおのずと残っていく気がします。
野崎:出し手の意図を超えてコンテンツがワークしてくれるはずですよね。狙いを定めすぎることや、受け手のことをわかったつもりでいることのほうががリスクだと思います。
