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第106号(2024年10月号)
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【特集】消費者インサイトから探る「創造・成長のカギ」

承認欲求vs周りの目、友情の築き直し、チル、パーソナライズ Z世代のインサイトにまつわる4つのカギ

 マーケティング業界に限らず、世の中全体で「Z世代」がバズワードのようになっている。この現象自体が、新しいトレンドを生み出し、情報構造の中心にいるのが若年層であることを示しているのではないだろうか。2022年から現在にかけて見られるZ世代のトレンドやインサイト、そしてそれらをビジネスに反映させるときのポイントを、サイバーエージェント次世代生活研究所 上席研究員 松野みどり氏に聞いてきた。

※本記事は、2023年2月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)86号に掲載したものです。

競争よりも調和を求めるZ世代の価値観

──はじめに、サイバーエージェントの次世代生活研究所についてご紹介いただけますか。

 次世代生活研究所は、「サイバーエージェントが最も未来を見られる組織」になることを目指して2019年に立ち上げました。研究の柱として、若者研究、ニューリテール研究、ニューメディア研究の大きく3つがあります。今回の取材テーマ「Z世代」に関連する若者研究においては、常時30人程度の学生インターンから生の声を聞くことができる点、研究で掴んだインサイトを広告主様への提案に活かすことができる点が我々の強みです。また、多くの広告主様と共に、ワークショップ形式や様々な定性調査手法を用いて若者の実態とインサイトを分析しています。

株式会社サイバーエージェント サイバーエージェント次世代研究所上席研究員 マネージャー 松野みどり(まつの・みどり)氏
株式会社サイバーエージェント サイバーエージェント次世代生活研究所
上席研究員 マネージャー 松野みどり(まつの・みどり)氏

──Z世代に近いところで研究をされる中で、松野さんはZ世代の特性をどのように見られていますか?

 まず、Z世代の比較対象としてゆとり世代を見ると、彼らは生まれたときから不景気で、中学受験者数が過去最高となるなど激しい競争環境で育ってきた世代です。これに対し、Z世代は“競争はない”と言っても過言ではないくらい、その環境背景が異なります。新型コロナウイルスにウクライナ戦争と世界の動きは不穏ですが、新卒内定率は9割を超えるとも予想されており、選り好みしなければどこかしらに就職できるという状況です。上の世代から見れば、「だからこそ、そこで頑張れば“一抜け”できるのでは」と思ってしまいますが、必死で頑張るより、みんなと“調和”することをよしとするのがZ世代の価値観のベースにあります。

 たとえば、Z世代のインサイトを紐解く最初のキーワードとして「チル」のカルチャーがあります。ゆとり世代が好んで飲んだエナジードリンクですが、Z世代の間ではリラクゼーションドリンクが流行しています。気合いを入れるためではなく、まったりする・落ち着く(=チルアウト)ためにわざわざドリンクを購入して飲むようになっているんですね。価値観が大きく変わっていることがわかるのではないでしょうか。他にも、Z世代を中心に水たばこのシーシャの専門店が流行っていますが、これにも「チル」のカルチャーが通底しています。

調和を重んじつつ、差別化も図りたい複雑な心理

──Z世代はSNSと育ってきた世代なので、承認欲求が強いイメージがあります。調和を重んじる価値観と承認欲求は、彼らの中でどう作用し合っているのでしょうか?

 Z世代は、中・高校生の頃からSNSで「いいね」をもらうという経験をしてきていますから、「自己承認欲求」と「人の目」も重要なキーワードです。「いいね」と思われるようなものをSNSに載せたいけど、奇抜なことで目立ちたくはないし、周りから逸脱してしまうと「いいね」はもらえない。周りに引かれたくはないけど、ちょっとだけ「私は違うよ!」というところも見せたい……。Z世代のSNSの投稿には、そんな心理が働いていると見ています。少しは差別化したいという“プチ差別化”を求める気持ちもありつつ、人の目が気になるという状況は、Z世代の大きなストレスにもなっているようです。

 1つ例を挙げると、2022年に流行した「バースデーカラー」には、こうした心理が表れています。バースデーカラーとは、誕生日から自分のテーマカラーと性格の特徴を調べられる誕生日占いのようなもので、366日のバースデーカラーが一覧で示されています。2022年頃、バースデーカラーの一覧画像と一緒に「私のカラーはこれだった!」と知らせるような投稿が多く見られたのですが、これにはどうやらバースデーカラーを媒介にして自分の誕生日をみんなに知らせたい、という欲求が働いていたようです。「私の誕生日は何日です」と言うと、「祝ってほしいのかな」とか「プレゼントが欲しいのかな」と思われてしまいそうだから、バースデーカラーを投稿する……。回りくどいように感じますが、これがZ世代の考え方なのです。

 ちなみに、バースデーカラー以外にも、NASAのハッブル宇宙望遠鏡が自分の誕生日に撮った写真をSNSで共有するという投稿も流行りました。最近よく見かける性格診断も同様です。性格診断を媒介にして、自分について知ってもらいたいわけですね。

──ネタとしてのおもしろさだけでなく、隠れた自己承認欲求があっての流行だったのですね。多様性が言われる時代に育っているので、もっと自由な感覚を持っているのかと思っていました。

 表面的にはSNSでキラキラと、自由に楽しんでいるように見えるZ世代ですが、いろいろなストレスを感じているのも事実です。たとえば、最近、写真を加工できないSNSアプリが流行っていますが、これにはこうしたストレスへの反動が表れていると考えています。BeRealは「アプリから通知が来たら2分以内にそのときの自分を投稿しなければいけない」というルールのあるSNSサービスで、2分以内に投稿できなければフォローし合っている友だちの投稿が見られなくなってしまいます。2分なので写真を加工する時間も、メイクをする時間もありません。友だちの“リアル”を知り、いつもキラキラしているわけじゃないと安心したい。同時に、自分の“リアル”も受け入れてほしい。そんな心理が見て取れます。ただし、Instagramでは周囲に合わせてしっかり加工をするので、実に複雑な心理です。

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーライター

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/04/07 14:56 https://markezine.jp/article/detail/41351

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