情報発信は「企業」から「生活者」主体へ これからの視点は「ファン」
最後に、4Pの企業による「Promotion(プロモーション)」におきかわる、4Eのファンによる「Evangelism(伝導)」についてです。
今は、生活者の声のほうがターゲットに響く時代になっています。そこで鍵となるのがエバンジェリスト、言い換えるとその商品やブランドの伝道師を務めてくれる「ファン」です。
従来のように企業側からの直接的なプロモーションだけではなく、SNSや情報発信の術が多様になっている今、熱狂的で等身大なファンからのレビューや口コミなどのリアルな声は、共感を得て、信頼性のある情報として瞬く間に広がります。
そのために、ブランドは、ファンをいかに作り、コミュニティ形成をし、さらには一緒にブランドを作って成長していくというプロセスデザインが、マーケティング上の重要な課題になってきます。ヤッホーブルーイングの「よなよなエール」はまさにファンと仲間になり、ブランドの共創パートナーとしてユーザーと関係性を構築しています。

こういう活動の中で、ブランドの物語が大切だと言われ、様々な角度で共感を生むストーリーが紡がれています。さらに生活者が語りたくなること(ナラティブ)まで行っていると真のファンを作り、Evangelism(伝道活動)までを生み出します。
このように情報発信・伝搬の回路が変わったことで、一昔前では一過性で終わってしまっていた深いブランドの体験が、強烈なファン作りや、拡散まで行い、ブランドという面を作ることが起こっています。つまり、“ファンになる体験”にも、4つのEの視点が大切なのです。
メタファー発想は体験価値をデザインするための有効な手段の1つ
これら4Eの概念を基本に置いて、次回からは前回までにも説明してきた3つのレイヤーの体験を深堀りしていきます。その際に3つのレイヤーに分けた体験では、「行動」、「擬人」、「舞台」のメタファーを実際に活用していくことになります。

ここでは、なぜそれぞれでメタファーを使うとわかりやすくなるのかの原理について少し説明します。
(1)仕組みの領域は、新しい商品やサービスにおいての核の部分に関する体験について表す部分になります。そのため具体的に誰か1人の“行動”をイメージすることが重要になりきます。そういった点から、行動メタファーの使用で、マーケティングを生活者のインサイトからだけではなく、行動を起点として考え体験を表現します。これを「行動デザイン」と呼びます。
(2)対話の領域は、顧客体験全般の中でも直接やり取りを行う必要がある体験について示す部分です。この体験においては「対話」がキーワードになります。そのため、商品やサービスには擬人メタファーで、人同士のやり取りに近い擬人化が求められます。そういった点から、擬人メタファーを使用して、商品やサービスの体験に人間味を付加していきますこれを「人間味デザイン」と呼び、体験価値を深堀りしていきます。
(3)世界観の領域は、ブランドが持つ商品の価値だけに留まらず、ブランド自体が持つ世界観までを伝える体験を表す部分になります。そこでは「舞台メタファー」を使用することで、生活者は主人公なり、そのブランドの中で物語を体験するところまでイメージを膨らませることができます。これを「物語デザイン」と呼んでいきます。
次回は、最後に紹介した3つの原理を深堀りしながら、実際に各体験を一言発想法にどのように取り入れていけばいいかを紹介していきます。