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有園が訊く!

市場が3兆円を突破した今、ネット広告の価値の転換期に差し掛かっている【有園×橋口対談】

クリックされない「99%」のネット広告の価値はどこへ消えた?

有園:業界全体の課題というのは?

橋口:あくまで個人的な視点ですが、ネット広告はこれまでクリックやコンバージョンというアクションに対して値付けをしてきました。クリックが1%だと残りの99%は値段が付かないんです。これを考え直す時期に入っていると思います。

 その根拠が、先日電通から発表された「2022年 日本の広告費」です。4マスやネットを含めた総広告費は過去最高の7兆1,021億円で、そのうちネット広告費は3兆912億円です。一方、マスコミ4媒体の広告費は2兆3,985億円で、ネット広告が4マス媒体の合計値を抜いてしまいました。

 4マス媒体の収益が落ちたということはテレビや新聞、雑誌、ラジオという媒体だけでは届かない情報があるということです。その届かなくなった情報を、ユーザー/生活者に届けていかないといけません。これまでのようにクリックした分、コンバージョンした分への課金だけではなく、価格が付いていない99%についてもその価値を明らかにし、新しい活用方法に変えていく必要があると考えています。

有園:これまではマス広告でブランディング、ネット広告でコンバージョンという棲み分けがあったのですが、そのマス広告が減ってしまった。すると減った分のマス広告の予算はどこに行ったのかというと、役割の違いからネット広告へ単純に予算がながれているのではないという意味でしょうか。

橋口:デジタルがブランディングに向いていないというわけではないのですが、提供側もクライアント側もその理解が追い付いていません。コンバージョンしない大部分のインプレッションに価値付けはされていないですし、売り方もいまだ模索中です。

 ネット広告とメディアの関係は、この20年間というものコンバージョンとクリックの世界で形成されてきたので、「いかにクリックさせるか」という方向に振り切ってしまいました。しかしネット広告は認知でも価値を出せるはずですし、その価値分の料金をいただくという理解が進めば、メディアの作り方、広告の出し方も変わると思います。

有園:今、メディアの記事を読もうとすると、インプレッションやクリック数を増やすためにページを多く入れたり、記事全体に広告を出したり、ユーザビリティを損なう方向に走っていますよね。

橋口:有園さんも以前から話されていましたが、広告影響度モデルの「AIDMA」「AISAS」の後ろに価値の比重を置き過ぎたのです。しかしネット広告がテレビ広告を含むマス広告のシェアを抜いた時点で、ユーザーがリーチできない時間の部分をデジタルが埋めていかないといけないと思うんです。そこが今、できていません。もちろんGMOアドパートナーズ自身もできていません。そこが課題と認識しています。

 もう1つ言うと、「インターネット広告で3兆円超」という捉え方もあまり良くないと思っています。1つで3兆円ではなく、細分化して見ていく必要があるのではないでしょうか。ブランディングと呼ばれている「認知」や「リーチ」の部分と、インプレッション部分で分け、それぞれの価値を考えて業界を見ていかないと、テレビや雑誌、新聞で「消えた」部分が見えなくなると思います。

3兆円に達した今こそ、ネット広告の価値を転換するタイミング

有園:ネット広告は「リーチ」で売れると思います。たとえば大手新聞社の有料会員の閲覧行動を考えると、朝は電車のなかでスマートフォンアプリでログインし、オフィスではWebサイトでログインし、帰宅してからタブレットでログインして閲覧しているとすると、スマホで見ているかPCで見ているか、IDに紐付いて把握できます。会員登録をしているので、居住地や年代、性別などももちろんわかります。「どこの誰に、どういうタイミングでどのチャネルでリーチできるか」という売り方に変えることはできるはずです。

 来年サードパーティCookieが廃止されると、こうしたユニークIDをどう活用するかがますます重要になるでしょう。その仕組みを媒体社、広告主に使ってもらえるように基盤を整えたら、広告主も媒体社もメリットがありますし、ユーザーにとっても無駄なフリークエンシーが減るのでユーザビリティも向上すると思います。あまりパーソナライズしたくなければ、ブロードリーチでできるように広告主が設定すれば、リーチとターゲティングとフリークエンシーをうまくコントロールできるかもしれません。

橋口:おっしゃるとおりですね。今はそのコントロールがうまくいかず、ユーザビリティを阻害している部分もあると思います。それがあるため、広告=邪魔という認識も出てくるんですよね。

 しかしマス広告に目を向けると、世界で賞を取るような素晴らしいコンテンツがたくさんあります。日本でも受賞した広告がありますが、それは大体、認知やアテンションにつながる広告なんですよ。そういう広告がデジタルで実現できるようになれば、ネット広告のインプレッションのリーチの価値をもっと上げられるはずです。

 そしてそんなクリエイターさんがデジタルマーケティング市場で活躍しているかといえば、残念なことにまだそこまでではありません。そこには社会的インパクトの強弱や報酬など様々な課題がありますが、先ほども話したようにその部分は少しずつシフトしているので、リーチとインプレッションにWebメディアの価値を転換すれば、心に刺さる広告クリエイティブが増えてくるのではないかと考えています。

有園:さすがですね。今日は非常に深い話ができました。ありがとうございました。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/04/14 08:00 https://markezine.jp/article/detail/41715

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