「気合いとガッツ」から「総合コンサルティング」へ変わるネット広告業界
有園:対談テーマの核心でもある「業界の課題と改善」について入っていきましょう。現在の業界を眺めると、どのような課題があるとお感じになりますか。
橋口:課題はいろいろありますが、特に考えていかないといけない点として、「日本の広告業界においてネット広告のプレゼンスをより上げていかなくてはならない」ということがあると思います。
有園:というと?
橋口:かつては「インターネット広告専業」という企業や業界がありましたが、今やネット広告は大手のクライアント様も増えていますし、電通様などの超大手広告代理店も本格参入しています。こうしたなか、ネット広告事業をけん引してきた立場としては、まず人材の質を上げていかなくてはなりません。
有園:2000年から2010年までの10年間は、ネット広告が一気に成長した時期でしたよね。当時は気合いと根性とガッツで勝負していた時代で、中には「この業界なら儲かるぞ」ということで参入してきた人も多かった。それ以降、この業界も変わり始めましたが、2000年代は売り上げもクライアント様も増え始めた時期で、人材の質まで気が回る時代ではなかったですよね。
橋口:現在はルールも整備されてきましたし、広告という商品の性質上、第三者の目に触れたり、社会的意義を問われたりすることも多くなりました。気合いと根性とガッツも必要ですが、人材も「デジタルでマーケティングを変えていきたい」という志がある方が活躍できる業界に変わってきています。
広告営業も変化しました。単に売るだけではなく、優秀なコンサルタント、運用するアナリスト、優秀なクリエイター、そして優秀なエンジニアが1チームにならないと、大手クライアント様に対してデジタルマーケティングを展開できなくなっています。こうした人材の質の変化は既に業界全体で起こっています。
そうなると優秀な人材に集まっていただくには、オフィスの居住性や利便性、働きやすさなどをしっかり整備し、大手のメディア会社や放送・出版社と肩を並べられるようなレベルにしなくてはなりません。当社では少しずつですが賃金も業界平均を見ながらプラスに働けるように心がけています。
有園:それはむしろいい話ですよね。2007年から経営者として業界をリードしてきたからこその発言ですね。ただ、先ほどもあったように常に先端を追い続けるスピード感、競合他社も数多あるなかでその変革をやり切るにはどうすればいいと思いますか?
橋口:変革は容易なことではないので、方針を決めて「やりきる」ことだと思います。

既存業務の延長線上に見える業界の課題
有園:人材の質の向上、企業のあり方の向上を目指しながら、新しいテクノロジを吸収していくため、どんなことを心がけていますか。
橋口:それこそ最近はチャットAIが話題ですが、追い付くのはやはり大変です。それには自分で使ってみるしかありません。検索エンジンやチャットAIから適格な回答を引き出すには、“相手”を理解して“相手”が理解できる質問を投げかけないといけない。どうしたら自分の望む答えを“相手”から引き出せるのか、常に向き合わなくてはなりません。
有園:さすがですね。それはとても大事な視点です。
橋口:TikTokにしても、毎日時間を決めてトップランキングの動画を観ていますよ。もちろん、ざっと触ってみるだけなので浅く広くですが、実際に見ると「ユーザーはこんなところが楽しいと感じでいるんだな」「ここはもっとこうしたら楽しいのに」と自分なりに考察を巡らせて使うようにしています。
有園:人材の質の向上、テクノロジへの対応など様々な課題がありますが、いずれにしても自分で手を動かして「やっていこう」という姿勢が大切なんですね。
橋口:ただ、今話した課題は事業を運営するうえでの課題の延長線上にあるものですが、業界全体で見るとさらに大きな課題があると思います。