もうコロナ前には戻らない。若者の「何も買わない消費行動」
大里:コロナ禍を経て、主体的にDXやデータ活用がされ、店舗ビジネスが大きく変化しました。人々は新たな生活様式を受け入れており、コロナ前とまったく同じ状況には戻れないと考えています。エリックさんは、ニューノーマルと言われる時代において、生活者の変化をどのように考えていらっしゃいますか?
エリック:私は、コロナ禍の影響と消費行動の変容は別物と捉えています。確かにコロナ禍を経験したことで、店舗のEC化を含むDXは本来の想定よりも5~6年くらい短縮されて進みました。
ただ、コロナ禍が明け、店舗で買い物ができるようになっても、生活者の購買行動は元には戻らないと思っています。そもそも、Z世代やα世代の購買行動は、それ以前の世代と大きく異なるからです。
エリック:購買とは本来は、お金を払ってものを買うことですが、現在では無料でサービスを使うことができます。それもあり、特にZ世代はお金を払わずとも満足した生活をおくることができ、それが当たり前になっています。つまり、生活者にとって購買の捉え方そのものが変容していて、自らお金を支払うことの重みが増していると言えます。
1to1マーケティングで消費者の信頼を得る
大里:この流れは、店舗ビジネスにも影響を与えるのでしょうか?
エリック:そうですね、大きな影響を与えていくでしょう。最近ではラグジュアリーブランドでもサブスクを展開するようになり、ブランド品も、数千円で手に届くようになりました。サブスクが浸透していくと「買う」選択肢を必ずしも取られなくなります。リアル店舗かECかという話にとどまらず、モノを買わない生活者といかに接点を築き、購買行動へ導くのかが今後、深く考えていくべきテーマだと思っています。
私は、「NEED」と「WANT」の違いが重要だと思っています。実際、「欲しいけどいらないモノ」は多くあります。たとえば、生活を軸に考えると、エンターテインメントは本来不要なものです。私の考える「WANT」の定義とは、抑えられない購買行動、購買衝動のこと。要は、買いたい気持ちが抑えられないからモノを買う行動のことを指します。車やiPhoneといった商品は、別に買う必要がないのに新製品が発売されるとチェックしてしまうし、見ると欲しくなる人も多いのではないでしょうか。
今の若い世代は、モノが周りに溢れているからこそ、逆に買いたい・欲しいという欲求が弱くなっています。だからこそ、どうすれば自分たちのサービスにお金を使ってもらえるか、どのように顧客を育てていくかを考えなければいけません。スマホがあればなんでも情報は手に入る上に、無料コンテンツも豊富なのでお金を払う必要性もありません。
時代に対応し、生活や触れるコンテンツの中に商品、サービスを組み込んで購買行動へと導くビジネスの考え方は、従来の販促手法とは当然大きく異なります。
大里:では、企業は何をどのように切り替えていくべきでしょうか。
エリック:今までのような販促では上手くいかなくなる可能性が大きいため、ユーザーといかにダイレクトラインを持つかが重要になってくると考えています。
テレビのCMは、昔であれば視聴者数が多い時間帯の広告枠を買ってCMを流せば一定の効果を得られましたが、若い世代はほとんどテレビを見ません。また、YouTubeも、コンテンツの質、モラルを考慮すると本当にそれが適切なのかわかりません。
このような観点から、消費者へ与える安心感・信頼・つながりを考えると、1to1のマーケティングが想像以上に必要な時代になっていくでしょう。