手段ではなく目的をゴールに見据える
顧客が持つ真のインサイトを捉えるのは、今後のビジネス・マーケティングにおいても重要な視点だ。梶浦氏は「本当のインサイトを考えたとき、我々が提供すべきなのは飲み物ではないのかもしれない」と語った。
「現在お酒を飲まない方向けに、“お酒に近しいもの”を通じて幸せにすることを考えているのですが、別に飲み物じゃなくても飲み会が盛り上がったり、場を楽しめたりできればいいのかもしれません。もちろん、“飲み物”で考えたほうが実現までのスピード感はありますが、いまやっている事業や手段にとらわれずにインサイトを捉え、明確なゴールを設定していくことが重要だと考えています」(梶浦氏)

中村氏によると、フェムテックでも梶浦氏の話したようなことが起きているという。
「フェムテックという言葉や関連した商品・サービスは手段の一つに過ぎないのです。目的をきちんと見据えた上で、手段が何なのかを考えることがとても大事だと思います」(中村氏)
次に、両社がどのようなKPIを設定しているかという話に移った。梶浦氏の場合、アサヒビールを親会社に持つ企業体系もあり、説明が必ず求められる。そこで設定しているのが、「スマドリに対しての認知度」「飲めない/飲まない人のユーザー数」だ。
一方、中村氏の場合も企業コンサルなどのBtoB事業の場合、企業側にとってまだ馴染みのないフェムテックという手段でどのように企業側の目的を達成できるか、クライアントと一緒に、狙う市場の規模や成長予測を加味しながらKPIを設定していくという。事業としての可能性や、進捗状況を数値として明確にすることが、長期的な視点が求められる事業において、重要な指標なのだ。
今後のマーケティングに求められる観点とは?
最後に廣田氏から、「今後マーケティングに求められる観点」について問いかけがあり、梶浦氏と中村氏が自信の考えを語った。
梶浦氏は、今日のテーマでもある「社会的に何の意味があるのか」という点が求められていると言及した。
「競合と比較して優位性があるかといった部分も、当然既存のビジネスとしてはやらなければいけない部分ですが、 “未来志向”で文化や新しい概念を作っていく上では、何のためにやるのか、社会にとってどういう価値があるかが欠かせません。でも、マジョリティーになっていないいま、それを考えるに当たっては、当然N=1のインサイトを掘り下げていくしかありません。それをやるための仕組みと環境を整えて、理解者を増やしていくことが重要かなと思っていますし、それを楽しくやれることが大切ではないかと思います」(梶浦氏)
中村氏は、「当たり前を疑ってみることが重要」だと語る。
「たとえば、ドラッグストアなどの生理用品の売り場は何十年大きな変化が起きていません。でも、消費者からも小売店側からも、それが“当たり前”すぎて、なかなか変革に取り組むきっかけがなかったんです。いままでの当たり前に対し、問いを立てて見てみると新しいマーケティング手法や観点というのが生まれてくると思っています」(中村氏)
今回の3名による話は、聞いて今すぐ実践できる内容ではないし、日々の業務で売上・利益を追い求めるマーケターからすると、壮大で抽象的な話に聞こえたかもしれない。しかし、梶浦氏や中村氏のように、社会課題に根差した消費者インサイトを捉え、市場に新たな商品やサービス、文化を生み出す活動が、今後のマーケティングに求められるのではないか。